織田裕二氏が語る『世界陸上の魅力』=ポイントは「暑さ」と「時差がない」こと
日本の注目選手は? 室伏選手に金メダルを……!
2大会ぶりに出場する世界陸上で金メダルを狙う室伏 【写真は共同】
今回は、モナコで7月に開催されたダイヤモンドリーグという陸上大会に取材に行き、多くの選手をミックスゾーン(競技を終えた直後の選手が取材を受けるエリア)で呼び止めて話を聞いてきました。その中に、日本人では澤野大地選手(千葉陸協:男子棒高跳び)もいました。彼は30歳でベテランの域に入ってきていて、今大会でどのような跳躍をみせるか楽しみですね。
また、日本で注目と言えば室伏選手(男子ハンマー投げ)。彼は10年前、01年の世界陸上(カナダ・エドモントン)で銀メダル、8年前の世界陸上(フランス・パリ)では銅メダルを取っているんですね。そこから、いつも世界1位のポジションにいたり、そこに近い位置にいるのに、まだ世界陸上で金メダルを取ったことがないんです。
04年アテネ五輪では金メダルを取りましたが、あれは選手失格による繰り上がりでの獲得ですから、今回はその場でスッキリと「金」を取らせてあげたいし、取って欲しいと思いますね。室伏選手はもうすぐ37歳。決してこれからの選手生活が長いわけではないと思うので、やっぱり見ている側としては力が入ります。
女子マラソンは、尾崎好美選手(第一生命)、赤羽有紀子選手(ホクレン)の二人を筆頭にメダル獲得への期待が高いと思いますし、女子100メートル、同200メートルの福島選手にも注目。福島選手が準決勝、決勝に残ることができれば、日本女子陸上界の歴史を変えることになりますしね。
「言った言葉を思い出せなくなるぐらい暑い」
今大会で注目すべきポイントは、まずは開催地が韓国のテグだということです。つまり、選手にとって敵になるのが、07年大阪大会のような湿気のある暑さです。それに対して、世界中の選手たちはどう対処するのか……。僕も取材で会場に実際に行ってきましたが、暑いです。テグは近くに山があるので、夜になると多少は涼しく感じましたが、日中は少し前に自分が言った言葉を思い出せなくなるぐらい、暑いです。
それと、番組中継的に言えば、時差がないんですよ。これまでは、注目してほしい競技が深夜開催になってしまった時に、「もうちょっと起きてて!」とか言ってましたけど、今回はそれを言わなくて済みますね(笑)。そして、時差がないおかげで、子どもたちが学校から帰ってきてから、家族みんなで楽しめるんじゃないかなと。一つのテレビを家族みんなで見るということは、僕たちが子どものころは当たり前だったけど、今はパソコンとかもあるし、一人にテレビ一台という時代だと思います。そんな中で、あまり家族の会話がない人たちにも、この番組を通じてコミュニケーションをとってもらえる、いい機会なんじゃないかなと思っています。
あとは、意外と予選も面白いので、そこにも注目して欲しい。1次予選で有力選手が転倒といったハプニングが起きることもありますし、選手の調子を見るという点でも注目です。例えば、強い選手だけを少数精鋭で集めて、いきなり決勝という形でやると、華やかではありますが、そこにドラマはあまりないんですよ。かたや、世界陸上のように1次予選、2次予選、準決勝、決勝という順で見ていくと、ドラマがあって最後には感動させられるんですよね。スタッフが作った総集編を最後に見ると、鳥肌が立ったり、泣かされたりします。
僕は普段ドラマとか映画とかをやっている中で、陸上競技を撮っていて、こんなに感動を呼ぶのか、泣かされるのかというのは、意外だったんですよね。役者としては、これに負けないように頑張ろうと思います。競技だけではなく、選手個々人にも視点を当てていくので、「この人がチャンピオンですよ」というだけではなく、それよりもっと深い人間ドラマが見られると思います。
事件は現場で……?
本番になって実際にやってみないと、どれぐらい時間がかかるか分からないですが、今回もスタジオだけではなく、トラックに行ってみたり、ミックスゾーンに行ってみたりというのも、作戦に入っていますね。前回大会の中継ではじっとしていられなくて、「事件は現場で……」っていうわけじゃないけど(笑)、面白そうな場所があったら行ける機動力があったので、やってみました。僕が行くとカメラの台数が増えるので(笑)、気になる選手の状態をより深くお伝えできると思います。
あとは、事前取材でインタビューした3選手(ボルト、イシンバエワ、フェリックス)には顔を覚えてもらったと思うので、それを生かして、話を聞ければなと思っています。ボルト選手なんかは、2年前にもインタビューしたんですが、覚えてくれていました。多分、このアジアの顔で取材しに来て、そして僕みたいに日本語で通す男は珍しいのだと思います(笑)。不思議な人として覚えられているのかもしれないですけどね。ただ、勝った時はいいですけど、そうじゃない選手にはやっぱり聞きづらいいものですけどね……。でも、選手には前よりたくさん話を聞けるかもしれない。
言い方はおかしいかもしれないですが、「陸上番組です!」というのではないのが「世界陸上」というか……。普段は特に陸上に詳しくない人が持つような素朴な疑問などを、僕たちが代弁して選手やコーチに聞いていければいいなと思っています。
そしてやっぱり、頑張っている人からは勇気や元気をもらえるんですよね。すべてがうまくいくわけじゃないし、いろいろな失敗もあるけれど、諦めないで必ず立ち上がってくる。今の僕たちが置かれている状況を考えると、いつもよりそういったことが伝わってくるのかな、元気がもらえるのかなと思っています。
<了>