松井らしく打ち建てた金字塔=日米通算500号本塁打達成

樋口浩一

「ちょっと時間がかかりすぎ」

タイガース戦で今季7号を放ち、日米通算500号本塁打を達成した松井 【Getty Images】

 米大リーグ・アスレチックスの松井秀喜がついに日米通算500本塁打を達成した。20日(現地時間、以下同)のタイガース戦、6回。この回先頭で登場し、メジャー初登板の先発左腕デュエイン・ビロウから右翼ポール直撃の一発を放った。「真ん中の甘いストレート。いいバッティングでした」(松井)という、手ごたえ十分の当たりだった。
 6月16日以来、103打席ぶりの本塁打。1カ月以上足踏みが続いた。「ちょっと時間がかかりすぎな感じはしますけど、試合も勝って良かった」と口にした。

 通算500本塁打は、過去日本では8人、長い歴史を誇るメジャーでも25人しか到達していない大台だ。「日米と分けることはない。500本塁打は素晴らしいことだ」とボブ・メルビン監督代行は称えた。
 ボブ・ゲレン前監督の下では出番が減っていたが、先月9日に同監督代行が就任してからは「打線の中心には頼りになるベテランが必要」との方針で、出場機会が増えた。松井にとってはありがたい指揮官である。ちなみに同監督代行は、2004年にイチローがシーズン最多安打記録を樹立したときのマリナーズ監督でもあった。

 それほどの偉業であるが松井は「(500本塁打への意識は)本当になかった。こんなに(長く)かかるんだったら、もっと意識すればよかった。そうしたらもっと早く出たかも。早く打ってしまいたい、とすら考えなかった」。こう言うほど気にしていなかったのだという。

チームの勝利のために

 松井らしい、と思った。日頃から「チームの勝利に貢献することがすべて」と言い、この日も「(個人の)記録は見ている方が喜んでくれればいい」と改めて話していた。本塁打についても「(他の安打に比べて)特別。最高の結果ですから。でもそれを目指して打席に立つことはない」。変わらぬ姿勢を貫いている。

 このような強い気持ちがなければ、高校時代から常に大きな期待を背負ったなかで、これだけの結果を残せなかったかもしれない。
 プロ1号は巨人入団1年目の1993年5月2日のヤクルト戦。抑えの高津臣吾から放ったものだった。この現場に居合わせたが、負け試合だったのに長嶋茂雄監督は試合後「松井が打った、うん、松井が打った」と繰り返していた記憶が残っている。敗戦の悔しさよりも松井が本塁打を打った喜びの方が大きかった。長嶋監督にとって大きな出来事だったのだ。
 期待通りに成長し、巨人では10年間で332本塁打。2003年にはメジャーに舞台を移す。イチローの活躍で日本の巧打者がメジャーで通用することは証明されていた。ただ、長距離打者は疑問視されており、そこへ松井が登場した。

本塁打数だけでは測れない信頼

本塁打にこだわらず、チームの勝利のために戦う姿勢で大きな信頼を得ている 【写真は共同】

 結果的には日本でのように本塁打を量産することはできなかった。
 2004年の31本が最多だ。投手の力が違う。球場の広さも違う、ボールも違う。そういった違いがあることは確かだ。

 そして、メジャーのパワーヒッターを目の当たりにして、自身がチームに貢献できる役割を打点に求めたこともある。1年目の2003年、16本塁打だったものの、41本塁打で107打点のジェーソン・ジアンビ(現ロッキーズ)に次ぐチーム2位の106打点をマークした。当時のジョー・トーリ監督は「チームのために、状況に応じたバッティングができる賢い打者」と高く評価した。その後3年連続100打点を記録することになる。

 「もっと本塁打を狙ってほしい」と願った日本の球界関係者やファンは多かっただろう。筆者も正直なところ、打率や打点をある程度犠牲にして、どれだけ本塁打が打てるか見てみたい気持ちはあった。しかし、それは松井の流儀ではなかったのだ。
 さらに左手首の骨折、両ひざの故障という試練を経験した。年齢的な衰えとも戦わなければならない。そんななか、チームプレーヤーとしてメジャーで168本塁打を記録してきた。
 本塁打にこだわることなく信念を貫き、本塁打数だけでは測れない信頼を得た。スターぞろいのヤンキースで打線の中核に座り、37歳の今もアスレチックスで4番を任されている。このことに一番満足を見いだしているのだと思う。

<了>
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著者プロフィール

1960年東京生まれ。東京外国語大学卒。スポーツ紙でアマチュアスポーツや野球を担当。98年に退社して翌年渡米。以降、東京新聞・中日新聞で、大リーグを中心とした米国のスポーツをレポートしている。

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