新体制のインテルに長友のポジションはあるか?=3−4−3システムを用いる新監督ガスペリーニ

ホンマヨシカ

来季の長友を待ち構える(?)し烈なレギュラー争い

ガスペリーニ監督が採用する3−4−3は両サイドの選手がキープレーヤーとなる。長友にもチャンスは訪れるはずだ 【Getty Images】

 さて、日本人にとって最も気になるのが、長友佑都の起用法であろう。長友の印象を聞かれたガスペリーニは「信頼できる選手だ。インテルでプレーしているのは、才能を持っているからであり、彼のような選手を指揮できることはうれしい」と語っている。だが、この発言内容は、新監督が選手に対する儀礼的な意味も多分に含まれており、あまり大きな意味を持たない。それでも長友がガスペリーニの戦術上、キーとなる中盤サイドを担えるプレーヤーであるだけに、期待をかけていることは間違いないだろう。

 あらためて、ガスペリーニの3−4−3について検証してみたい。3バックを用いる場合、守備の場面では中盤両サイドの選手がディフェンスラインまで下がり、5バックの形になる場合が多い。ガスペリーニのやり方は、左右どちらかのMFが下がっての4バックになるのが特徴だ。3−4−3システムでは、選手に激しい運動量が求められるが、特に中盤両サイドの選手は最も傾向が顕著で、かつ攻守におけるキープレーヤーの役割を担わされる(ザッケローニ監督が日本代表で試した3−4−3もおそらく同様だろう)。

 ジェノア監督時代のガスペリーニが、このポジションで重宝していた選手はマルコ・ロッシだ。3バックの左右から中盤両サイド、さらには左右のサイドアタッカーまで無難にこなしていたし、状況次第では中盤センターのポジションも担当していた(僕は密かに「ジェノア版サネッティ」と呼んでいた)。おそらくインテルでは、そのサネッティに、ジェノアにおけるマルコ・ロッシのようなマルチプレーヤーの役割を与えるのではないか。そのように想像するのは、決して難しいことではない。

 では、長友の起用についてはどうだろう。昨シーズン途中からインテルに移籍した長友は、実力で左サイドバックのレギュラーポジションを奪い取っただけではなく、ティフォージに最も好かれる選手の1人になった。新シーズンではサイドバックではなく、中盤の左サイド(あるいは右サイド)で起用されることになりそうだ。その場合、4バックでのサイドバックのポジションだった昨シーズンに比べると、攻守においてよりゲームに絡むプレーが要求されるはずだ。

 加えて中盤サイドではライバルも多く、昨シーズン以上にし烈なレギュラー争いをしなければならない。現に『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙が、毎日掲載しているインテルのスタメン予想では、中盤両サイドのポジションには、マイコン(右)とサネッティ(左)の名前があり、長友はベンチスタートとなっている。

新体制下での長友への期待、そしてガスペリーニが抱える不安

 もっとも前述の通り、このシステムの両サイドは一番消耗の激しいポジションである。実際、ジェノア時代のガスペリーニは、サイドを担当する選手のターンオーバーを頻繁に行っていた。そうして考えると、たとえスターティングイレブンから漏れたとしても、長友の出場機会は決して少なくはならないだろう。むしろ、彼の驚異的な持久力とスピード、それに左右どちらのサイドでもプレーできる能力は、ガスペリーニにとっても頼もしく映るはずだ。さらに言えば、ジェノアにおけるマルコ・ロッシの役割を、新監督がサネッティではなく長友に任せたとしても、なんら不思議ではないだろう。

 ガスペリーニはあまりメンバーを固定せず、うまく選手を使い回す術(すべ)に長けている監督だ。ジェノアでは、監督に対する選手の不信感や不満がほとんど噴出していなかったのも、彼のコミュニケーション能力に加えて、選手の起用法のうまさに負うところも大きかったと思う。ただし、ジェノアのようなスクデット争いと無関係なクラブと違い、インテルはスペクタルなカルチョに結果も伴わなければならない。

 もし連敗でも喫することになれば、すぐに「しょせんは地方レベルの監督」という批判を浴びることになり、早期解任の不穏なうわさも流れるだろう。それにインテルはミランやユベントスに比べて、クラブ内部の不満や問題がすぐに噴出するという、悪い体質を持っているのも気掛かりだ。アイルランド代表監督のジョバンニ・トラパットーニも、ガスペリーニのインテル監督就任について「新時代を築くには、モラッティの辛抱強さが必要。ただしうまくいかない場合、インテルはすべてが噴出する。この点に関しては、ミランの方が監督をかばう傾向がある」と語っている。

 果たしてガスペリーニ率いるインテルは、結果を伴いながらスペクタルなカルチョを見せることができるのだろうか。そして長友は、新体制となるインテルでもレギュラーのポストを確保することができるか。早くも新シーズンの開幕が待ち遠しくなってきた。

<了>

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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