太成学院・今村、「腰の低いエース」からの成長=関西ナンバーワン左腕が語った決意
2年生の時点で見せていた“超高校級”のピッチング
千羽鶴を手に笑顔を見せる太成学院・今村 【島尻譲】
ちょうど1年前、雨上がりの練習は室内練習場で行われていた。目前に迫った夏の予選で背番号1を背負う先輩投手の横、投球練習で汗を流す今村は間違いなく一級品だった。重心移動もスムーズで、腕の振りも柔らかさと力強さが同居。ストレートがキャッチャーミットに収まる直前の一刺し、ブレーキの利いたカーブは当時2年生ながら超高校級と、手放しで絶賛するに値するもの。
ただ、投げるボールだけで勝負するのが投手というポジションではない。それを痛感したのは今村が実戦(夏の予選)で投げている姿を見た時だった。確かにボールは素晴らしいが、投手としてのオーラが微妙というのが正直な感想。投手というポジションの人種は、往々にして“オレ様”と言うか、相手チームに対して「打てるもんなら打ってみろ」と見下している感が強いのはもちろんのこと、自軍の選手たちにも「黙っておけ! オレに任せておけば大丈夫」というように口を挟ませないオーラが漂っている。
それを感じさせなかったのは今村が2年生だったからかもしれないけれども、あまりにも腰が低い背番号10のエースという印象が強かった。
心からの悔しそうな表情と、冷静さの中に感じた攻めの姿勢
“関西ナンバーワン左腕”今村が最後の夏に挑む 【島尻譲】
トレーニングの成果で、身体(特にお尻と太もも)はパッと見でも大きくなっていた今村。やや「バランスで悩んでいる」と言いながらもフォーム的に大きな問題はない。完成度の高くなったスライダーも大きな武器になるだろう。でも、優等生を絵に描いたようなオーラは変わっていなかった。チームメートと談笑している時でも輪の中にはいるが、決してイニシアチブを取っている訳ではない。チームメートの他愛もない話題(大阪風に言うならば、しょうもない話題)に笑みを浮かべる程度。投手らしいオーラはむしろ2番手の若狭恭平(今村が投げている時は5番・左翼)の方がプンプンに漂わせているくらい。3年生になってもオーラの変わらない今村、これは生来の性格で簡単に変わるものではないのかもしれない。
秋は大阪府ベスト8だった太成学院高。春は大阪桐蔭高戦で敗退してベスト16に終わった。この試合、自軍の4つの失策に泣いた部分もあり、今村は9回を投げて6失点。試合序盤(3回)で早々に4失点を喫した時、今村の心から悔しそうな表情を初めて見た。しかし、ムキになるのかと思いきや大阪桐蔭高打線を封じるため、変化球でボールカウントを整え、ストレートを打者の内角へ厳しく投げ込む。冷静さの中にも攻めの姿勢を感じる投球内容に今村のオーラの色が濃くなったような気がしたものである。
交通事故で他界した仲間…、今村が語った決意
その激例会も終え、今村の気持ちも盛り上がって来たようで、言葉のひとつひとつもいつもより力強かった。
「ピンチの時でも三振を狙うべきところでは狙う」
「連投の練習もして来ているので、連戦にも不安はない」
「個人的な目標はプロ野球選手ですが、今は仲間と戦える幸せを感じる気持ちが強い」
「仲間たちと一緒に甲子園へ行くしかない」
最後の夏、太成学院高は“鬼の大阪”とも呼ばれる激戦の中でも比較的、楽なブロックに配されている。だが、勝ち進んでいけば、楽もへったくれもないのが一戦必勝のトーナメントというものだ。それでも、太成学院高は注目左腕の今村以外にも前述した若狭や大谷元太と、投手力が充実。また、攻撃力でも高校通算本塁打30本以上の岡原祐希や橋爪太一といった左のスラッガーも控えている。近年、打たないと勝てないとも言われている大阪府予選で、投打のバランスが良いのは心強い限り。
「大旋風 僕らのドラマ 終わらせない」
太成学院高のマネージャーを務める藤井良介の川柳(朝日新聞にも掲載された)に込められた思いに負けない快進撃に期待したい。
<了>
今村信貴/いまむら・のぶたか
中学時代、生駒シニアでは近畿大会の準決勝・決勝で連続完封勝利して優勝。昨秋の大阪府大会ではベスト8止まりであったが、毎回の14奪三振(大塚戦)や最速146キロ(履正社戦)で一気に注目度が高まる関西ナンバーワン左腕の呼び声も高いドラフト候補の投手である。
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