「優勝できなければ引退」K-1新王者・久保優太の覚悟
K−1MAX63キロ級トーナメントを制した久保優太に独占インタビュー 【茂田浩司】
「微笑みスナイパー」というキャッチコピーの通り、リングを降りれば笑顔をたやさない久保もこの日は違った。3試合を戦い抜き、緊張から解放されるとバックステージで号泣。「今回優勝できなければ引退する覚悟でした」と胸に秘めていた思いを明かしたのである。
まだ23歳と若く、魔裟斗を始め誰もが認める抜群のセンスを持つ「次世代のスター候補」が、なぜ今回のトーナメントで「引退」まで賭けて戦わなくてはならなかったのか。
「一生懸命頑張ります」しか言えなくなった
【t.SAKUMA】
はい、いろいろとお話をいただいてまして、この前は長野の「こもろTV」さんでインタビューをしていただきました。
――取材にはもう慣れてきましたか?
はい、これからはいろいろとお話をさせていただきたいと思っています。あの、これはずっと取材していただている茂田さんだからお話が出来るんですけど……。僕、「一生懸命頑張ります」以外に話せなくなっていたんです。
――何か理由はあるんですか?
みんなに嫌われたくない、というか……。自己主張して、例えば10人のうち7人に好かれても、3人に嫌われるのが嫌だったんです。それなら好かれなくてもいいから『10人にどうでもいいと思われたい』と思って、無難な答えを探す癖がついてしまったんです。
――それはいつ頃からですか?
ジムを移籍して、1年5カ月の間試合が出来なかった時期にいろんな大人の事情を知って、まだ19歳だったので本当にびっくりしたことがたくさんありました。人の恨み、妬みの怖さも知って、それなら『何を考えてるか分からない、でいい』って思ったんです。でも『悪く思われたくない』と思うと何も話せなくなって、コメントをする時も『一生懸命頑張ります』だけになってしまって。
――そういえばキック時代はもっとアピールしてましたね。相手を首相撲で振り回して勝って、マイクで「K−1に出たい!」とか。K−1に最も不向きなスタイルなのに、と不思議でしたけど(笑)
すみません(笑)。ずっとK−1に出て魔裟斗さんのように活躍することが夢だったので、あの頃は何も考えずにとりあえず言っておいた方がいいかなって思って言っちゃったんですけど(笑)。
「引退覚悟」で臨んだ理由
試合後「僕は引退が掛かってましたから」と“覚悟の差”を口に 【t.SAKUMA】
はい。「もっと自己主張をしないといけない」と思ったのは、今回の大会の後で去年との違いを感じたからなんです。去年は準優勝だったんですけど、次の日から歩いているだけで気づかれて声を掛けられたり、反響が凄かったんです。でも今年はテレビ中継がなくて、応援してくださる方は喜んでくれたんですけど、声の掛けられ方もチョコチョコという感じなんです。「K−1を知らない方」には何も伝えられていなくて、このままだとK−1が衰退していくんじゃないかって。
――そうですね
チャンピオンになったんだから「嫌われたくない」とか保身的な考え方は捨てて、もちろん礼儀はちゃんとするんですけど「僕はどういう人間か」とか「世界でこう戦っていきたい」とか、もっとアピールしてK−1の新しいファンを増やしていきたいんです。7人に「あいつ変わったな」とか「デカいこと言ってんじゃねえよ」と言われても、新しい3人に知って貰うような活動をしていきたいなって。
――なるほど。ところで、試合後に驚いたのが「負けたら引退する覚悟だった」ことです。なぜそこまで自分を追い込んだんですか?
試合までの1カ月間にいろいろなことがありまして……。いろんな人に助けていただいてやっと大会に出られたんです。僕もそれなりの責任を負って、進退をかけて試合をしないといけない状態だったので、試合前に応援してくださる方々には『今日、優勝できなかったら引退するので覚悟を見てて下さい』と言いました。
――格闘技も大きなイベントが減り、このご時世ということもあって「ファイター専業」が成り立たなくなりつつある現状がありますからね
僕は仕事をしながらキックボクシングが出来るような器用なタイプではないですから……。そうしたら1回戦の才賀(紀左衛門)選手との試合の時に「負けたらどうしよう」と不安になって、全然自分の動きが出来ずに見えているパンチを貰ってしまったり、対策も用意していたのに出せなくて。それが出せていたら、と思うんですけど。