古豪復活へ、ベルギー代表が歩んできた道=名将も認めた魅惑溢れるプレーで復権を期す

中田徹

ヒディンクも認めた現代表のポテンシャル

リールの中心選手として大活躍したアザール(写真)を筆頭に、今のベルギーには有望な若手選手が数多く台頭している 【写真:AP/アフロ】

 ところが、最近のベルギー代表は非常に魅力的なサッカーで国民を沸かせている。今回のユーロ予選ではオーストリア(4−4、2−0)、アゼルバイジャン(4−1)と派手な試合で勝ち点を重ねているのだ。
「現在のベルギーはベテランと若手、白人と黒人のミックスが絶妙だ」と言われているが、とりわけ強調されているのが「多くの選手が外国で高いレベルを経験している」ということだ。

 ベルギーはオランダ語を話すフランデレン地方と、フランス語を話すワロン地方に分かれるが、それぞれサッカー強国のオランダとフランスに挟まれている。ドーバー海峡の向こうにはイングランドがあるし、大陸側にはドイツがある。中でも若いベルギーの選手が、育成に優れたオランダのクラブで鍛えられて、トッププレーヤーになる傾向が強い。今回の代表チームで言うとDFアルデルワイレルト、フェルトンゲン(以上アヤックス)、フェルメーレン(アヤックス→アーセナル)、MFメルテンス(AGOVV→ユトレヒト)、FWチャドリ(AGOVV→トゥエンテ)がそうだ。また、最近欧州中から注目を浴びているFWアザールはリールのユースで育ち、今季はトップチームのフランスリーグ優勝に大貢献した。
 
 また、DFコンパニ(マンチェスター・シティ)、ロンバールツ(ゼニト)、MFデフォー、ウィッツェル(共にスタンダール)、FWオグンジミ、フォッセン(共にゲンク)、ルカク(アンデルレヒト)が各国のリーグやカップ戦で優勝争いを経験。NECのストライカー、フレミンクス(来季はクラブ・ブルージュ)はエールディビジの得点王に輝いた。

 以上の選手に23歳と若いGKミニョレ(サンダーランド)と、精神的支柱のベテランMFシモンス(ニュルンベルク)が加わって、「去年と今のベルギーは全く違う。今のベルギーはわれわれ(トルコ)以上にオランダっぽいサッカーをするチームだ」とトルコ監督のヒディンクに言わしめるチームに成長した。

 今のベルギーは言語問題、経済問題があって国が2つに分かれている。フランデレン地方のある自治体は、ワロン圏のベルギー人が引っ越してきても住民登録を認めなかったという。しかし、ここのところのベルギー代表の活躍に、ロード・ダウフェルスを応援する機運が高まった。こうして6月3日のトルコ戦のチケットはあっという間に売り切れたのだった。
 試合当日の朝刊はこう書いた。「レーケンス監督は、『このトルコ戦は10年間で一番重要な試合だ』と語った。ベルギーが最後に盛り上がったのは02年のW杯だった。ひとつの国、ひとつのチーム、ひとつの目的――トルコに勝つ。そして来年夏の欧州選手権だ」と。

合言葉は「9 op  9」

 キックオフの数時間前からベルギーサポーターがスタジアム周辺の路上に集結し、たくさんのビニールボールを蹴り上げながら、だんごサッカーをしていた。スタジアムは超満員。トルコのサポーターがスタジアムの片隅にしかいないというのは、かつてのポーランド戦やトルコ戦の様子を思い出すと感慨深いものがあった。

 開始1分、いきなりフェルトンゲンが鋭いスライディングタックルで相手ボールをかっさらう。4分にはアザールのクロス、チャドリの折り返し、オグンジミのシュートと、3トップの迫力ある攻撃で早くもベルギーが先制した。22分に1点を失ったものの、ベルギーの攻勢は続いた。しかし後半、ウィツェルがPKを外してしまい、試合は1−1のまま終了。ベルギーは2位にとどまったものの、3位トルコの方が試合数が1つ少なく、自力での2位=プレーオフ進出が難しくなってしまった。

 期待のアザールは、前半こそ先制ゴールに絡んだものの、後半早々に交代させられむくれたまま更衣室に戻り、さらには試合終了直前にスタジアムの外へ出てハンバーグを食べているのが見つかってしまった。また、第1PKキッカーのシモンスを差し置いて、ウェッツェルがPKを蹴って失敗したことに対しても批判が集まった。それでも「オーストリア戦の4−4といい、今のベルギーは非常に面白いサッカーをしている。ありがとうと言いたい」という声もあるほど、今のベルギーは国民を楽しませている。

 残り3試合。ベルギーの合言葉は「9 op 9」となった。これは3連勝して勝ち点9を奪い取れという意味だ。最後の試合がアウエーのドイツ戦だけに、難しい挑戦かもしれない。トルコ戦後のインタビューで3連勝を要求されて口ごもるメルテンスの隣で、コンパニがきっぱり「やるぞ!」と誓った。
「すごい(コンパニの)リーダーシップだ!」
 そううっとり語るベルギー人たち。ようやく彼らが誇りに思える代表チームが帰ってきた。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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