戦術眼と成熟度の高さを見せた関塚ジャパン=U−22日本 3−1 U−22クウェート

小澤一郎

「最低限の結果」は出した日本

日本は清武(右)、大迫(中央)らのゴールでクウェートに3−1で先勝した 【Getty Images】

 前回の北京五輪と異なり、ホーム&アウエー方式による一発勝負のレギュレーションとなったロンドン五輪のアジア2次予選・U−22クウェート代表との第1戦。試合2日前の17日にはエースの永井謙佑が左足首を負傷し、不穏な空気も漂っていた。だが、関塚隆監督率いるU−22日本代表は、快勝とも呼べる内容で3−1の勝利を収めた。3点差をつけてからアウエーゴールを許したことで、敵地で行われる23日の第2戦も気の抜けない試合にはなる。とはいえ、関塚監督が語る通り「最低限の結果」は出したと言えるだろう。

 日本のスタメンは、GK権田修一、DFは右から酒井宏樹、鈴木大輔、濱田水輝、比嘉祐介、ダブルボランチに山本康裕と山村和也。1.5列目は右から清武弘嗣、東慶悟、山崎亮平、1トップに大迫勇也という1−4−2−3−1の布陣。ドクターからゴーサインの出ていた永井はベンチスタートで、トップ下での起用が予想された原口元気も先発から外れた。

 対するクウェートは、A代表にも選出されているユセフ・ナセルを前線の1トップに置く1−4−1−4−1の布陣。予想通りキックオフから日本がボールを支配する展開で、クウェートは自陣に引いて守りを固めた。キックオフ時に前線左に2人を並べてキック&ラッシュを仕掛けてきたように、中東のチームらしい不気味さはあったのだが、開始10分ほどで「余程のことがない限り大丈夫」という印象を持った。

 楽観視できたポイントは2点。まずは球際の勝負で日本が勝てていたことである。これは1日に行なったU−22オーストラリアとの国際親善試合での経験が大きい。試合前日、酒井高徳は「オーストラリア戦は試合全体を通して球際で負けたところがすごく目立った。カウンターにつながる1つの場面もそういうところから始まると思うので、そこをいかにつぶし切れるかというのが大事になる」と語っていた。この日、日本の選手たちの局面でのプレーには、オーストラリア戦の反省を生かした球際の強さと気持ちが出ていた。現代サッカーでは戦術やシステムが多様化、複雑化しているが、何よりも大切なのはやはり、球際や当たりの強さである。

 もう1点は、クウェートのカウンターに怖さが全くなかったことだ。日本が警戒していた1トップのユセフ・ナセルは、体の強さを生かしてボールを収める場面もあったが、「あそこに当てられても次がなかった」と濱田が振り返った通り、サポートが皆無で完全に孤立無援状態だった。今年2月の中東遠征や直前のオーストラリア戦で、日本はコーナーキックからのカウンターで失点している。そうした場面をスカウティングした上で狙いをつけてくるかと思いきや、クウェートは日本のコーナーキック時、前線に人を残すことなく、ほぼ全員がペナルティーエリア内に戻っていた。日本の最初のコーナーキック時にこの光景を見て、少なくともコーナーからのカウンターでやられることはないと確信した。

個人戦術の未熟さを露呈したクウェート

 前半18分に清武が先制点を決めるまで、日本は7本ものシュートを放ち、チャンスを作りながらも決められない展開が続いていた。しかし、ここでも不穏な空気より、クウェートのマークの甘さの方が目につく。清武のゴールシーンを振り返ると、クウェートの選手はクロスに対し、ボールとマーカーを同一視野に入れるポジショニングを取れていない。比嘉のクロスボールを後方から走り込んだ清武がダイビングヘッドで決めた日本の得点シーンにおいて、7人ほどエリア内にいたクウェートの選手は全員がボールウォッチャーだった。クロスが上がる前に頻繁に首を振り、相手の走り込みを警戒しながらポジションを修正するような選手は皆無。個人戦術の未熟さを露呈していた。

 37分には、コーナーキックからのボールを濱田が豪快に頭で押し込んで、日本が追加点を奪う。前半15分までに4本のコーナーキックを得た日本は、その中でクウェートのマークの甘さ――ペナルティーエリア内に人を置くだけで、マークの確認を怠る相手の守り方を見抜いていた。試合後、濱田に「事前にクウェートのセットプレーにおける守備、マークの甘さをスカウティングしていたのか?」と聞くと、「特に何も聞いていないし、そうしたビデオも見ていなかった」との返事が返ってきた。

 しかし、「最初の1、2本のコーナーキックでマークが甘いなというのは感じた」(濱田)という。だからこそ、キッカーを務めた山本と清武のボールは、中央やファーサイドにふわっと浮かせる球種が多かったのだろう。これは、滞空時間の長いボールでも、相手のマークの甘さと鈴木、濱田の高さをもってすれば、十分競り合いに勝てる、得点できるという共通認識があった証拠だ。濱田も「(選手同士)言ってはいなかったですけど、感じていたとは思います」と語った。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会 人経験を経て渡西。バレンシアで5年間活動し、2010年に帰国。日本とスペインで育 成年代の指導経験を持ち、指導者目線の戦術・育成論やインタビューを得意とする。 多数の専門媒体に寄稿する傍ら、欧州サッカーの試合解説もこなす。著書に『サッカ ーで日本一、勉強で東大現役合格 國學院久我山サッカー部の挑戦』(洋泉社)、『サ ッカー日本代表の育て方』(朝日新聞出版)、『サッカー選手の正しい売り方』(カ ンゼン)、『スペインサッカーの神髄』(ガイドワークス)、訳書に『ネイマール 若 き英雄』(実業之日本社)、『SHOW ME THE MONEY! ビジネスを勝利に導くFCバルセロ ナのマーケティング実践講座』(ソル・メディア)、構成書に『サッカー 新しい守備 の教科書』(カンゼン)など。株式会社アレナトーレ所属。

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