グアルディオラ、バルサ史上最高の監督へ=栄光の軌跡とこれから加わる1ページとは

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75%のファンが不安視した監督就任

グアルディオラ監督は栄光の軌跡にさらなる1ページを加えることができるのか 【Getty Images】

 就任初年度にクラブ史上初の3冠(リーガ・エスパニョーラ、スペイン・スーパーカップ、チャンピオンズリーグ=CL=)を獲得し、2年目の昨季はUEFAスーパーカップ、スペイン・スーパーカップ、そしてFIFAクラブワールドカップを制してサッカー史上初の6冠を達成。わずか2年で獲得可能なあらゆるタイトルを総なめにしたバルセロナのジョゼップ・グアルディオラ監督は16日、再び3つのタイトルを制覇すべく、宿敵レアル・マドリーとの決戦に挑む。

 2008年夏。グアルディオラがフランク・ライカールトの後任候補に挙がった際、多くのバルセロナファンは期待より不安を抱いた。クラブ生え抜きのアイドルとはいえ、監督としては前年に当時テルセーラ(4部相当)のバルセロナBを率いた経験しかない。クラブ史上3番目に若い当時37歳の青年監督に対し、地元紙が当時行ったアンケートでは、バルサの監督にはふさわしくないという意見が75%、同じく候補に挙がっていたミカエル・ラウドルップ(現マジョルカ監督)を推す声は70%にも上っていた。

 そんな彼が就任1年目から誰もが成し得なかった成功をつかむことができたのはなぜか。グアルディオラの下で世界一の選手へと成長したリオネル・メッシは、あるインタビューで次のように説明している。
「ペップ(グアルディオラ監督の愛称)は、自らがハードワークすることで少しずつ選手たちの信頼を勝ち取っていった。彼はサッカーの知識が豊富で、自身の考えを選手たちに伝えるすべを知っている。だから、チームはペップを信頼しているんだ」

 またインテル時代、ジョゼ・モリーニョ監督から何の説明もなしに出場機会を与えられなくなった経験を持つマクスウェルは、「ペップとは練習後によく話すんだ。彼はゆっくりと、落ち着いた口調で物事を説明してくれる。当然、それは何も話してくれない監督よりずっと良いことだ」とグアルディオラについて語っている。

たぐいまれなるモチベーターとして

 自分自身が24時間、120%のエネルギーをチームのために注ぎ込むことで、身を持ってハードワークの大切さを選手たちに示す。自らの考えを伝え、また選手の考えを理解するためのコミュニケーションを最大限重視する。こうした姿勢を貫くことにより、彼はエゴが強すぎたサミュエル・エトーにチームへの忠誠心、犠牲心を植え付け、アーセナル時代のキレを失っていたティエリ・アンリに自信と輝きを復活させた。また、4部リーグでプレーしていたペドロ・ロドリゲスやセルヒオ・ブスケツを世界王者スペイン代表の主力に育て上げることに成功してきた。

 グアルディオラはたぐいまれなるモチベーターとしても有名だ。例えば、クラブ史上3度目のタイトルが懸かった08−09シーズンのCL決勝。この試合のキックオフ直前、彼はウォーミングアップを早めに切り上げて選手たちをロッカールームに集め、あるビデオを見せた。それは決戦の地ローマにちなんだ映画『グラディエーター』に、選手1人ひとりが戦い、ゴールし、喜びを爆発させる姿を盛り込んだ7分ほどの映像作品だった。ビデオが終わり、ロッカールームの照明がついた際には多くの選手が涙を流し、グアルディオラはそんな選手たちを無言でピッチに送り出したという。試合結果はご存じの通りだ(バルセロナがマンチェスター・ユナイテッドに2−0で勝利した)。

 翌09−10シーズンの最終節、リーグ2連覇を決めたホームのバジャドリー戦前にも、グアルディオラはThe Killersの曲『Human』に乗せた選手たちのプレー映像をロッカールームで流し、決戦に挑むチームの士気を高めた。同年には、山中で病に倒れた登山家イニャキ・オチョアを救うべく、仲間の登山家たちが山へ挑んだというドキュメンタリー番組を用い、選手たちにチームワークの重要性を考えさせたこともあった。このようなグアルディオラの人心掌握術、メンタルコントロール術はサッカー界はもちろんのこと、ビジネスなど他分野でも注目を集めるようになっている。

栄光の日々はいつまで続くのか――近付く“終えん”の時

 そんなグアルディオラの様子が最近、ちょっとおかしい。先日は選手時代にプレーしたブレシアの100周年記念DVDへの出演に応じ、その撮影中に「思うに、わたしのバルセロナでの時間は終わりを迎えようとしている」と発言したシーンが放送されて話題となった。6日に行われたCL準々決勝、シャフタルとの第1戦後には、地元カタルーニャのテレビ局TV3のレポーターが行った試合後のインタビューに対し、明らかな嫌悪感を示して「(シャフタルは)とても良いチームだ。でも、君たちの方がよく知っているだろう。好きに意見するがいい」と言い放ち、物議を醸している。

 グアルディオラは多大な消耗を強いられるバルセロナの監督というポストに疲弊し、自身がモチベーションを失いつつあるのではないか。先日、1年間の契約延長に同意したものの、バルサでの栄光の日々はもうすぐ終わりを告げるのではないか。勝利を重ね、記録を更新し続けるチームに酔いしれる反面、バルセロナのファンたちはそんな一抹の不安を感じ始めている。

 いずれにせよ、すでにグアルディオラはバルセロナ史上最高の監督と呼ばれるにふさわしい軌跡を残してきた。それがどこまで続くのかは知る由もないが、少なくとも彼がこれから始まるレアル・マドリーとの2連戦にて、その軌跡にさらなる栄光の1ページを加えようとしていることだけははっきりしている。

<了>

文/工藤拓
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