アメリカ人のローマ

 もし何か不測の事態が生じなければ、ローマは歴史上初のイタリア人以外のオーナーを持つことになる。トマス・ディベネデットというイタリア人の名前にもかかわらず、彼は米国人であり、ローマの将来にとって壮大な構想を持っている。

 3月29日、ローマから短いアナウンスがあった。「イタルペロリS.p.aとユニクレジット、およびディベネデットASローマLLCと数日間の交渉の末、ローマの経営権獲得に関して基本的な合意に達した。60%はディベネデットASローマLLCが出資し、40%はユニクレジットが支払う」と。別の言い方をすると、センシ一族はクラブを手放し、1927年創設以来初の外国人会長が誕生するということだ。

 一見、ディベネデットはまるでイタリア人のようだ。ベネデットという名前は修道士を意味している。セリエAの多くのチームが経営難に陥っているが、ディベネデットはその救い手としてうってつけの名前だ。
 今季、ローマは給与の支払い遅延によって、勝ち点を減らされる危機に直面している。幸いなことに、オーナーの1人であるユニクレジットは銀行なので、こうした状況には役に立つのだが、ロセラ・センシ会長は、付け焼き刃では解決できないと判断し、新しいオーナーを探し出したのだ。

 ロシア人、カタール人、中国人、さらにはイタリア人にも当たった末、最終的にボストンの米国人を探し当てた。ボストン・レッドソックスの経営経験があるディベネデットは4月20日にローマの新会長に就任する。第31節終了時点でローマは6位。チャンピオンズリーグ(CL)出場権獲得には6ポイント足りない。クラウディオ・ラニエリ監督の辞任後、ヴィンチェンツォ・モンテッラ監督にとって状況は厳しいものになっている。しかし、ユベントスに0−2と敗れた後でも、ディベネデットはCLの出場権を取れると信じているようだ。
 新オーナーは米国人だが、CL出場権獲得の意義をよく知っている。レッドソックス以外にも、彼は米国のスポーツビジネスに関わってきた。ジャンクション・インベスター社の社長であり、ジェファーソン・ウォーターマン・インターナショナルの社長も務めた。そのほかにもリゾート開発会社やソフトウエア会社の経営も行っている。フェンウエイ・スポーツグループのパートナーでもあり、すでにリバプールの経営にも部分的に関与している。

 ただ、UEFA(欧州サッカー連盟)は1つの大会に出場する複数クラブのオーナーをもはや認めていないので、リバプールとローマが来季のヨーロッパリーグに参加することになれば、ランキングがリバプールより下位のローマは最悪、出場を辞退しなければならなくなる。

 ディベネデットは、2億ユーロ(約245億円)の予算を組むと見られている。半分は借金の返済に充当される。
「わたしの会長としての最初の仕事は、収支を安定させてUEFAファイナンシャル・フェアプレー(※収入を超える戦力補強や年俸の支払いをしないことを義務化する制度)の基準をクリアすることだ。しかし、だからといってクラブに投資をしないわけではない」

 つまり、残り半分は補強に充てるというふうにもとれる。ティフォージ(熱狂的なファン)は、早くもビッグネームの獲得を夢見ている。ブッフォン、ジュゼッペ・ロッシ、パストーレ、ポドルスキ、エジル、カカ……。しかし、経営陣は新スタジアムの建設を念頭に置いているようだ。ヨーロッパランキングでドイツの下に転落してしまったイタリアの地位を再び押し上げるには、スタジアムが必要だと考えている。
「クラブがスタジアムを所有していないことは大きな問題だ。快適で居心地が良く、さまざまなビジネスチャンスを拡大してくれるスタジアムが必要だ。フットボールはイタリアの経済と文化にとって非常に重要で、国全体のイメージを良くしてくれる。政府や協会はスタジアム建設を推進してほしい。それがヨーロッパの舞台で勝利する方法であり、一流の選手たちをイタリアに呼び戻すことができる方法だ」

 クラブの収益を上げることも大きな課題だ。ディベネデットは、すでに現在のユニホームを米国のメーカーのものに変更すると明言している。中国やインドなど、全世界的にユニホームを売るつもりだ。彼の目標はローマをイタリアのトップクラブに押し上げ、さらにヨーロッパのビッグクラブにすることである。
「わたしの目的はローマを世界のトップクラブの1つにすることであり、ローマ市民が誇りに思うクラブになることだ。しかし、当然それにはある程度の時間が必要だが」

<了>
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著者プロフィール

1965年10月20日生まれ。1992年よりスポーツジャーナリズムの世界に入り、主に記者としてフランスの雑誌やインターネットサイトに寄稿している。フランスのサイト『www.sporever.fr』と『www.football365.fr』の編集長も務める。98年フランスワールドカップ中には、イスラエルのラジオ番組『ラジオ99』に携わった。イタリア・セリエA専門誌『Il Guerin Sportivo』をはじめ、海外の雑誌にも数多く寄稿。97年より『ストライカー』、『サッカーダイジェスト』、『サッカー批評』、『Number』といった日本の雑誌にも執筆している。ボクシングへの造詣も深い。携帯版スポーツナビでも連載中

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