川尻インタビュー「被災地で頑張ってる人たちと一緒に」=4.9ストライクフォース

茂田浩司

ストライクフォース世界王座に挑戦する川尻(左)と2度目の米挑戦に挑む高谷 【t.SAKUMA】

 日本の総合格闘技にとっての一大決戦が近づいている。
 4月9日(現地)、米国カリフォルニア州サンディエゴのヴァレービューカジノセンターで開催される「Strikeforce Diaz vs Daley」。この大会に青木真也、川尻達也、高谷裕之が参戦。川尻はギルバート・メレンデスの持つストライクフォース世界ライト級タイトルに挑戦する。
 DREAM王者の青木と高谷に、タイトル挑戦者・川尻という最強の布陣。本来ならもっと注目を浴びてよいはずで、DREAMも3選手揃っての会見を予定をしていたという。だが3月11日に発生した東日本大震災を考慮して会見は実現せず、3選手が顔を揃えるのは現地入り後となった。
 震災後、「4. 9」を控えた選手と関係者は複雑な心境を抱きながら日々を過ごしてきた。山田トレーナーがその胸中を明かす。
「厳しいですよ。『こんな状況で人を殴ったりしてる場合じゃない』と思います。『試合を見せて日本人を元気に』というにはまだ早いんじゃないかとも思うし」
 山田トレーナー自身、親族が被災して震災後は安否の確認に追われた。また、余震が続き、原発事故も収束しない中で幼い子供と奥さんを残して10日間以上アメリカに滞在することの不安もためらいもある。
 同じように川尻と高谷も幼い子供と奥さんを残してアメリカに行かなくてはならない。
 川尻は強い余震の続く茨城在住。深刻なガソリン不足で黒船に通えない期間はやむなく自主練習に切り替えたが、不安が膨らむばかりで1週間後に黒船に復帰。川尻と高谷の顔を見て山田トレーナーも覚悟を決めた。
「3人で集まると『試合も決まってるし、やるしかねえだろ』と練習する空気になるんですよ。もし出場する選手が一人でマンツーマンならきつかった。川尻と高谷と何とか3人でテンションを保ってきた感じです」

川尻「被災地で頑張ってる人たちと一緒に頑張りたい」

地震で被害を受けた茨城在住の川尻は「被災地の人と一緒に頑張りたい」と決意 【t.SAKUMA】

――震源地に近い茨城在住。大変なことも多かったのでは?

川尻 一時期はやばかったですね。金曜日に地震があって、次の週はパニック状態でしたけど、もうだいぶ立て直っているので問題はないですね。ガソリンがなくて練習に行けないのが一番困りましたけど、もう大丈夫です。練習も計画通りではないですけど、納得いくようには仕上がってきてるかなっていう。まだあと2週間あるんで、ちょっとイメージよりは遅いですけど仕上げていく感じですね。

――アメリカでの初試合、タイトルマッチ、震災と背負うものが多くなりました

川尻 そうです、逃げ出したくなるぐらいいろんなものがどんどん大きくなってきてるから。でも逃げ出したくはないし、強い自分でいたいし、っていう。そういう思いもすべて呑み込んで勝ちたいですね。もう全部。
 「絶対に勝つ」なんて言えないですけど。向こうのジャッジとかレフェリングとかも含めて不利なのは分かってるんで。だけど、そういうことがあっても絶対に諦めずに、勝ちに行くことを最優先に戦おうと思います。何としても勝ちを取ってきたいと思ってますね。どの試合よりもそれは強いですね。

――練習を見てもやるべきことが全部分かっている印象を持ちました

川尻 そうですね、うん。後は本当に『気持ち』ですね。ケージに入っての5Rが初めてだから。(修斗での)デビュー戦で思いっきり心が折れて、そういう自分を変えたい、あんな自分をもう出したくないと思って10年やってきてるんで。そういう意味で恐怖もあるけど、『絶対にオレは変わってるんだ』と思ってるから。
 絶対に苦しい試合になるのは分かってるんで。そんな状況でも勝てるような練習をしてきてるから。どんな状況でも、自分の思い通りに行かなくても絶対に諦めたくないし、勝ちたいですね。

――何かメッセージはありますか?

川尻 今、(被災地で)頑張ってる人がたくさんいます。そういう人たちと一緒に頑張りたいなっていう気持ちが強いですね。僕一人が頑張って勝ったって、日本が盛り上がるかっていったら盛り上がらないと思うんで。僕が励ますとかどうこうじゃなくて、今、頑張ってる人たちがいるから、僕も絶対に負けたくないし、一緒に頑張って、一緒に日本を復興したり、盛り上げていきたいですね。

高谷「絶対に勝って日本に元気を持って帰る」

高谷は「絶対に勝って日本に元気を持って帰ります」と意気込み 【t.SAKUMA】

――パンチの射程距離が長くなりましたね

 相手(ペラルタ)が動くのが速いので遠くに届くように意識してやってますけど、これはやってみないと分かんないですね。相手は、来る時は来る時で粗いけど、引く時は引く時で動きが速くて、今までのタイプと違うので。なかなかつかまえるのが大変そうだし。金網だし、広いし。

――アメリカは念願のリベンジの舞台

 そうですね、この2年で練習とか全部変えて、自分がどれだけ変われたかが査定できるので。ビビアーノ戦とかで手応えはあるんですけど、アメリカだとそういうところ以外にも調整方法が難しかったりもするから。今まで失敗してきたことも考えて、上手く調整して力が出せるようにしたいと思います。

――地震があって気持ちの部分でも大変でしたね

 はい、最初の何日かは『この状況で練習をやっていいのかな?』みたいな感じだったんですけど、途中からは自分ができることをやるしかないと切り替えてちゃんと調整はできたと思います。

――色々と背負うものも多いですね

 そうですね、背負いたいなと思います。絶対に負けたくないし、勝って、少しでも喜んでくれる人がいればいいと思います。

――勝ってアメリカを主戦場に?

 日本で戦わなくなることはないと思うんですけど、アメリカでさらに上を目指すことになるかはまだ分からないです。今はまず次、勝つことです。絶対に勝って、多少なりとも日本に元気を持って帰ります。

スカパー!でストライクフォース生中継

日本時間4月10日午前11時(スカチャンHD Ch.190など)
視聴料金は3150円(税込)
視聴方法はスカチャンのホームページ参照
(http://www.sukachan.com/battle/)
※DREAMフェザー級王者・高谷裕之の試合は現地のテレビマッチではないため放送未定
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著者プロフィール

94年から週刊の情報誌でスポーツページを編集。野球、サッカー、NBA、テニス、F-1など様々な競技や選手を取材。96年からフリーに。99~02年「ゴング格闘技」編集ライター。現在は格闘技、お笑い、教育、健康、舞台・テレビ、政治・時事などを幅広く取材・執筆中。

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