G大阪のミッシングピースを埋める宇佐美という才能

永田淳

ポゼッションだけにとどまらない攻撃サッカー

宇佐美はC大阪とのダービーでも決勝ゴールの起点になるなどチャンスを創出 【写真:アフロ】

 2011シーズンのJリーグが3月5日に開幕した。アジアカップ優勝を遂げた日本代表メンバーの多くが海を渡っていることもあり、欧州リーグへの注目が高まっていることを感じる昨今、われわれの最も身近にあるJリーグにも見どころは非常に多く、今季も再び熱い戦いが繰り広げられることは間違いない。
 そのJリーグにおいて、今シーズン最も注目されている選手の1人が、「G大阪アカデミーの最高傑作」「G大阪の至宝」と呼ばれ、日本サッカーの将来をも担うと期待される宇佐美貴史だ。各世代の年代別代表で常にエースとして活躍し、最近では海外の名門クラブからも熱い視線を送られているプラチナ世代の筆頭。今回は、そんな彼を中心に今季のG大阪を展望したい。

 昨季まで主力だったルーカスや安田理大らが抜け、新たにアドリアーノやキム・スンヨンらが加入したG大阪が目指すのは、今季も攻撃的なサッカーであることに変わりはない。G大阪の心臓である遠藤保仁、復調したリーグ屈指のファンタジスタ・二川孝広、C大阪からやってきた新エース候補・アドリアーノら実績ある選手たちによって作られる攻撃は、非常に魅力的なものになるだろう。

 ただ、G大阪と聞いて人々が抱く「ポゼッションサッカー」や「パスサッカー」といったイメージがすべてだと考えるのは正しくない。もちろん、ポゼッションはG大阪のスタイルの1つではある。だが、昨年、一昨年に縦への速さを意識したサッカーで結果を出したことが示しているように、単にポゼッションするだけでなく、さまざまな攻撃パターンを持ち合わせ、どんな状況下でも持ち味の攻撃力を発揮することこそが、G大阪の目指すところである。

 そんなサッカーを可能にさせるのが、今季から背番号11をつける宇佐美の存在である。これまで、G大阪は中盤で高いポゼッション率を維持しながら、引いて対応してくる相手を崩し切れない試合が少なくなかった。ボールを保持して主導権を握っているように見えても、足元から足元へとつなぐだけでなかなかスピードアップせず、逆にカウンターを受けて失点を食らってしまっていたのだ。しかし、宇佐美のようなドリブルもできる選手が入ることで、G大阪の攻撃に不足していた“もう一変化”が加わり、より力強いチームへと変ぼうしつつある。

“黄金の中盤”からの脱皮

 西野監督は「ポゼッション=優位な結果が出ることになるとは思っていない。中盤でのパス構成からスピードアップしていくことは、自分がガンバに必要だと思っていること。ボールを配って、ボールでスピードを上げることは二川や遠藤ができるかもしれないけれど、やっぱり人の動きの中でもそういったものを出していかなければいけない。アドリアーノとかイ・グノといったランプレーヤーもそうだけど、貴史のドリブルでのスピード感が生きてきている」と語っており、今季はより鋭い攻撃に期待できそうだ。

「相手を引きつけたり、1人かわしてからの二川やヤット(遠藤)のパスも生きてくる。いろんなプラスを生んでいくんじゃないかとも思っている。前線にスピードがあって、相手のラインを下げてくれれば、中盤で使えるエリアが確保できてさらに良くなる。まだまだ機能的じゃないけれど、可能性はすごく感じる」(西野監督)

 実際、今季初の公式戦となった3月1日のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)グループリーグ第1節のメルボルン・ビクトリー戦、宇佐美は中央で後方からボールを受けると、ターンして一気にドリブルで突き進み、アドリアーノへ狙い澄ましたスルーパスを送った。完全にフリーの状態ではあったが、宇佐美のドリブルでのスピードアップと正確なスルーパスが、イ・グノの得点を呼び込んだ。続く5日に行われたJリーグ開幕戦の大阪ダービーでも、中盤で前を向いてボールを持った宇佐美のドリブルからのスルーパスが、決勝点の起点となった。

 従来のG大阪であれば、いったんスピードダウンさせて味方の攻め上がりを待っていたであろう場面でも、宇佐美が相手をかわしたり抜いたりして攻撃に変化をつけることで、相手選手が戻って陣形を整える前にフィニッシュへと持ち込むことができる。昨季から見えてきた変化が、今季はより形になる回数が増えた。攻撃のタクトを振るう遠藤も「ドリブルをしながら回していけるのは非常に良いことだし、横に揺さぶりながら縦への速さもある攻撃ができてきている。どんどん前に運んでから高い位置でボール回しをすれば、さらに良くなると思う」と手応えを感じている。

 明神智和、橋本英郎の負傷離脱によるダメージが大きいことは間違いない。だが、遠藤というブレない軸があり、昨シーズン不調だった二川が復活してきたところに宇佐美という才能が加わることで、これまで以上に魅惑的なサッカーが見られるのではないかという期待は高まるばかりだ。長く不動と考えられてきた遠藤、二川、明神、橋本による“黄金の中盤”から脱皮し、さらに進化したG大阪の中盤が生まれることも現実味を帯びてきた。

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著者プロフィール

1980年生まれ。愛知県出身。小学3年からサッカーを始め、主にDFやMFとしてプレー。法政大学卒業後、商社勤務を経てフリーライターに。現在はG大阪・神戸を中心に少年〜トップまでカテゴリーを問わず取材している。Goal.comのDeputyEditor、少年クラブ指導者としても活動している。日本サッカー協会B級ライセンス保持。

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