ペアスケーターであることの幸せ=フィギュアスケート・ペア 高橋成美インタビュー

青嶋ひろの

世界選手権、五輪への思い

3月の世界選手権は2人にとっては初の舞台。「ノーミス」、「スケーティングの質を上げたプログラム」を見せることが目標だという 【坂本清】

 念願かなって再びペアの世界へ。マーヴィン・トランと組むことになったのが今から3シーズン前の高校1年生の時だ。練習地はカナダのモントリオール。コーチはソルトレイクシティ五輪金メダリストのサレー&ペルティエ組を育てたリチャード・ゴーチエ。さらにゴーチエの教え子でもあるブルーノ・マルコット・コーチ、振付師のジュリー・マルコット、元アイスダンサーでストローキングのコーチ、シルビー・フーラムらが彼女たちをサポートする。同じリンクにはシニア、ジュニア合わせて6組のペアがいて、世界選手権に出場経験のあるカナダ代表メーガン・デュハメル(現パートナーはエリック・ラザフォード)ら優秀な選手も、トレーニングメイトにいた。
 整った環境と相性のいいパートナーを得て、高橋&トラン組は順調に国際舞台で成績を伸ばしていく。08年初出場時には15位だった世界ジュニアも、09年には8位、先シーズンは2位。そして今年の、本格シニアデビュー後の快進撃は先に述べた通りだ。

――一気に世界ジュニアのメダリストになった昨年の成長も素晴らしかったですが、今年はさらに「上手になった」という声をたくさん聞きます。大成長の理由は?

 今年のオフシーズンはスケートはもちろん一生懸命練習したんですが、スケート以外のレッスンがたくさんできたんです。わたしは初めてバレエを習ったし、マーヴィンは1週間に5日、フィジカルトレーニングをしています。リフトで持ち上げられていても、マーヴィンが強くなったと感じるんですよ。それから、フリーのために2人でアルゼンチンタンゴも習いに行ったし、振付師のジュリー、ブルーノ先生のお姉さんですが、彼女のところに週に一度必ず行くようになったことも大きいと思います。同じプログラムをずっと練習していると、ちょっと飽きてしまうことがあります。でも、毎週ジュリーに見てもらって、もっといいものにするために話し合っているから、毎週毎週プログラムの課題ができる。それがいいんです。今年のショート「Feeling Good」は、ジュリーが「この曲なら2人に合う!」と選んでくれた音楽だから、滑っていて自分たちの中に振付けが溶け込んでいく感じがします。フリーのアルゼンチンタンゴは難しいので、やりがいもすごく大きいですし。

――確かに、急に難しい技ができるようになったわけではないのに、全体の雰囲気が洗練され、シニアらしさも出てきたような気がします。ただ、エレメンツの部分でも、さらに挑戦したいことがあるのでは?

 まずチャレンジしたいのは、トリプルのツイストリフトです。今はまだダブルなので、それがキーになって、なかなかシニアの大会では一番になれない。でも今できているダブルツイストの高さを考えると、トリプルもできる気がします。このシーズン中から練習していくつもりです。

――ハイレベルのエレメンツといえば、4回転スローなども成功している川口悠子&アレクサンドル・スミルノフ組(ロシア)ですね。彼女たちのことも目標のペアとして挙げていますね

 はい、川口選手のサーカスみたいな技はすごいと思う。リフトひとつとっても、決められたポジションばかりでなく、ほかの人には真似できない自分たち独自のポジションを取って、誰にもできない2人だけの世界を作り上げているんです。自分たちはまだ、既にある、誰もがやっているエレメンツをきれいに見せることを一生懸命やっている最中。だから今やっていることをきちんと達成したら、最終的には川口さんたちみたいな、オリジナリティーのあるペアになりたいと思っています。

――川口悠子選手、井上怜奈選手、若松詩子選手……。日本のペアは少ないけれど、日本人でペアスケーターとして活躍した良い先輩はたくさんいますね

 先輩たちはみんな海外で、しかも1人で知らない国に行って、外国人のパートナーと練習していた。「ああ、こんなふうにペアをすることもできるんだ」って、道を作ってもらったような気がします。自分が最初で、未知の世界に踏み込むとしたら怖かったかもしれない。でも、「できないことじゃないんだ、怜奈ちゃんたちがやったようにすればいいんだ」って思えた。わたしは作ってもらった道を、ただ歩かせてもらっている感じなんです。

――そうなるとどうしてもファンの皆さんが期待するのは、井上選手や川口選手も出場した五輪のこと。高橋選手はどう考えていますか?

 自分たちも、出られるのならば絶対出たいです! でも、今は2人の国籍が違うという問題があるので……。ただ、マーヴィン以外の人と五輪を目指すつもりは全くありません。五輪かマーヴィンか、どちらかを選べと言われたら、絶対にマーヴィンを取ります。マーヴィンは本当に素晴らしいパートナー。2人はすごく仲がいいから毎日練習も楽しいですし、演技にもその楽しい雰囲気が出ているかなと思うんですよ。
 それにマーヴィンはスローはちょっと苦手だけれど(笑)、それ以外の技、リフトもソロジャンプも全部のエレメンツがうまいんです。すごく貴重なパートナーで、今、彼とスケートができていることは、たぶん一生忘れないと思います。

――では五輪のことはまたゆっくり考えるとして、今年はシーズン後半も大きな試合が続きます

 はい、全日本選手権が終わったら、2月に四大陸選手権、世界ジュニア、世界選手権、国別対抗もあります。

――特に世界選手権は初めての舞台ですね。しかも東京開催ということでたくさんの方が高橋&トラン組にも注目するのでは?

 今は毎日の練習にできることを全部ぶつけるだけ。世界選手権では、全部ノーミス、かつスケーティングの質も上げたプログラムを見せることが目標です。

――ペアをあまり見たことがない方に、「ここを見てほしい!」というポイントはありますか?

 自分たちに関しては「リフトが得意です」って言えるかな。リフトはあまり考えることもなくできるエレメンツです。それからスロージャンプは練習でも試合でも気持ちが良くて大好きなエレメンツ。きれいに降りた時が、本当に気持ちがいいんです。でもペアはそんな大きなエレメンツに注目されがちだけれど、もっと難しいのは2人の呼吸を細かいところまで合わせること。スケーティングのラインを2人できっちり合わせる、ステップのタイミングをぴったりそろえる……。そんなところも、できれば見てほしいですね。

――高橋&トラン組の活躍で、たくさんの人がペアに注目するようになりそうですね

 頑張りますので、ぜひ見てください! でも本当は、みんなに無視されても、全然平気なんです。スケートは自分たちが好きだからしていること。今はこうしてスケートができるだけで幸せなんです。

◆   ◆   ◆

 スケートができるだけで幸せ――その言葉で、高橋成美がペアを続けることがどれだけ大変なことだったか、よくわかるような気がした。
 高橋の先輩たち、井上怜奈、若松詩子、川口悠子といったペアスケーターたちは、みんなたくましく、強い女性たちだ。しかし彼女たちよりもずっと若くして世界に飛び出した高橋は、まだそれほどの精神的な強さは得ていないかもしれない。その代わりに、今彼女はまだ自分が弱いことを知っているし、強さを補うための愛嬌(あいきょう)、愛される力も持っている。
 戦いながら、彼女はきっと日本の女子選手らしい強さを得ていくだろう。また彼女だけの新しい個性を持ったペアスケーターにもなるだろう。待望の日本代表ペアの成長は、今シーズン後半もたっぷり見ることができる。

<了>

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著者プロフィール

静岡県浜松市出身、フリーライター。02年よりフィギュアスケートを取材。昨シーズンは『フィギュアスケート 2011─2012シーズン オフィシャルガイドブック』(朝日新聞出版)、『日本女子フィギュアスケートファンブック2012』(扶桑社)、『日本男子フィギュアスケートファンブックCutting Edge2012』(スキージャーナル)などに執筆。著書に『バンクーバー五輪フィギュアスケート男子日本代表リポート 最強男子。』(朝日新聞出版)、『浅田真央物語』(角川書店)などがある

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