ベニテス監督につきまとう解任論=続投への条件はクラブW杯制覇

ホンマヨシカ

ベニテスに対する抗議はそれほど挙がっていない

監督解任の危機に立たされているベニテス。続投の条件はクラブW杯制覇だ 【Bongarts/Getty Images】

 今シーズンの不振に対するベニテスへの批判だが、まず負傷者の続出についてはコンディション調整の失敗が指摘されている。しかし、それはベニテス1人のせいというよりも、他チームの選手に比べて多くの試合を昨シーズンに消化したことによる疲労が取れないまま(シーズン後にW杯・南アフリカ大会が開催されたこともあり)、新シーズンに突入せざるを得なかったことも関係しているだろう。

 次に、ベニテスの戦術がまだチームに浸透していない点を批判されているが、これについては多くのレギュラー陣を欠いたまま戦わざるを得なかったことも考慮しなければならない。とはいえ、随所で見せた左右に若くてスピードのあるウインガーを使った素早いパスワークは、今後の成長を期待させるものだった。

 もう一つ批判されているのは、重要な試合で表れた緊張感・緊迫感の欠如だ。僕自身も、もしインテルのベンチに温厚なベニテスではなく、切れ味鋭いかみそりのようなモリーニョがいたら違った結果になるのでは、と感じた試合が何度かあった。

 多くのインテリスタはカリスマ性のあるモリーニョがインテルを去ったことを今さらながらに惜しんでいるのだが、その割にはベニテスに対する抗議の声はそれほど上がっていない。
 これはベニテスの温和な人柄が好かれているのと、リバプールの監督時代に残した実績が評価されているからだろう。特にインテリスタにとっては、ベニテス率いるリバプールが04−05シーズンのCL決勝で、奇跡的な逆転劇を演じてミランの優勝を阻んだことが大きい。

クラブW杯優勝が監督続投の条件

 多くのレギュラー陣を欠いてのアウエー戦とはいえ、カンピオナート第15節のラツィオ戦とCLでのブレーメン戦に完敗したことで、モラッティはベニテスに対してはっきりとクラブW杯で優勝することが続投の条件だと言い渡した。
 ベニテスにとってまさに背水の陣で挑むことになったクラブW杯だが、監督だけではなく選手にとってもカンピオナートでの重苦しい雰囲気から逃れることができたのは好都合だったと言える。

 実際にアブダビに移動してから、練習中のチームの雰囲気は日が差したように明るくなった。スタンコビッチやカンビアッソが練習後のインタビューで「負傷者が復帰して約100日ぶりにチーム全員での練習が可能となったことで、練習前にはこれまで忘れかけていた冗談が飛び交うようにもなった」と語ったように、ミリートやマイコンをはじめとする主力選手が試合に出場できる状態になったことも大きい。

 そして迎えた城南一和との試合では、インテルがその雰囲気の良さを裏付けるような展開で快勝を収めた。
 開始早々にスナイデルが負傷退場するという不運なスタートを切ったが、その後の展開には両チームの実力差が歴然と表れていた。
 久しぶりに復帰したミリートの動きに切れがあったことは朗報だ。勝って当たり前の相手だったと言ってしまえばそれまでだが、この勝利がインテルとベニテスの頭上に覆い被さっていた暗雲を少し遠くに追いやったことは確かだ。

 18日には欧州と南米以外から初めて決勝進出を果たしたアフリカ王者のマゼンベ(コンゴ)と優勝を争う。個々の身体能力が高く、南米王者のインテルナシオナル(ブラジル)を破り勢いのあるマゼンベに勝利するのは決して易しくはないだろう。
 準決勝の前日にサネッティが「やっと全員がそろった。このクラブW杯で再び本当の強いインテルを見せることができるだろう」と語っていたが、その言葉通りにインテルが強さを見せつけてベニテス解任の危機を払拭(ふっしょく)することができるのかどうか注目である。

<了>

(協力:FIFAクラブワールドカップ事務局)

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著者プロフィール

1953年奈良県生まれ。74年に美術勉強のためにイタリアに渡る。現地の美術学校卒業後、ファッション・イラストレーターを経て、フリーの造形作家として活動。サッカーの魅力に憑(つ)かれて44年。そもそも留学の動機は、本場のサッカーを生で観戦するためであった。現在『欧州サッカー批評』(双葉社)にイラスト&コラムを連載中

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