羽生結弦の前に立ちはだかる世界の壁=フィギュアスケート・ロシア杯
「自分はまだまだ弱い」
世界の壁の高さを肌で感じた羽生。さらなるレベルアップが求められる 【Getty Images】
シニアで戦う多くの先輩選手たちは、よくこんなことを言う。
「一緒に戦う選手のことが気になっていた時は、自分のことがおろそかになり、勝てませんでした。でももう人のことなんか気にせず、自分の演技を見せようって思うようになったらすごく楽になったんです」
羽生もロシア杯を経て、その鋭すぎる牙、勝負師のこだわりを捨てていくのだろうか。「勝ち負けよりも自分の演技」に納得することを、目指していくのだろうか。
試合終了後、大いに悔しがりながらも、彼は笑っていた。
「悔しいけれど……楽しいです。この悔しさは、絶対次への糧になると思う。ここで経験しなきゃいけない悔しさだったと思うし、こんな試合ができて良かった、と思っています。
だから全日本(選手権)では、こんな演技はもう絶対にしないって言いたいです。これから1カ月の間に、ジャンプ構成の確認、4回転の精度を上げる、スケーティングの向上……。やるべきことはいっぱいあるけれど、この短期間で全部クリアしてみせますよ。もう、楽しいです! やるべきことがすごくたくさんあって楽しい。『これをやれば絶対うまくなれる』がこんなにも明確なんですから。
そしてシーズン前には迷っていたけれど、やっぱりジュニアからシニアに上がったこと、すごく良かったです。もし今シーズンもジュニアに残っていたら、誰も200点は超えられない中での戦いでしょう? 戦う意味はもうなかった。でもシニアはこうして200点を超えても(※ロシア杯の総合得点は202.66)、やっと7位です。強い選手がいっぱいいる、この層の厚さがいいですよね。今、4種目の中でも男子が一番レベルが高い。壁がすごく厚い、高いことを感じています。
楽しいなあ! ほんとにシニアに上がってよかった。向かうべきものがこんなにたくさんあって、明確にそこに見えているなんて。自分はまだまだこの場所ですごく弱い。もっともっとうまくなりたい、強くなりたいなって……すごく思いました」
羽生を強くするもの
勝ちへのこだわりを持って臨んで、大きく跳ね返されたロシア杯。それでも笑って、敵の強さに大喜びしてみせるのが羽生だ。彼の負けん気、闘争心は、少しも変わらないどころか、さらに大きくなっている。羽生を強くするのは「自分の演技への満足」ではなく、やはり「越えるべき壁の厚さ」、「戦うべき相手の手ごわさ」なのだろう。
なぜ彼らは滑り続けるのか?
「勝負など関係ない。自分の芸術を完成させるため」ときっぱり言い切ったステファン・ランビエールのような選手もいた。さまざまな意思を持つスケーターがいて、それぞれの火花を散らし、このスポーツを面白くしてくれる。
シニア1年生、世界中が期待を寄せる逸材・羽生結弦。彼はこの場所で、勝つために滑ることを選んだ。これから先の全日本選手権、いつか立つ世界選手権の舞台、そして4年後へ――、羽生は不敵に笑いながら、勝つために強く、美しくなる。その姿を、わたしたちに見せ続けるに違いない。
<了>