存続への道筋は? 運命の9月21日を前に=東京ヴェルディの土壇場勝負2

海江田哲朗

羽生社長が感じる経営引継ぎへの手応え

支援企業候補との交渉の際、羽生社長は育成組織など東京Vのストロングポイントを訴えているという 【海江田哲朗】

 8月下旬、羽生英之東京V代表取締役社長に聞いた。東京Vの経営を引き継いでもらう支援企業候補と交渉中とのことだが、手応えはどうか。
「クラブの皆さんには安心して仕事を進めてくださいと話しています。大丈夫、つぶしませんから」

 そんな言葉を聞いても、つい眉(まゆ)根にしわが寄ってしまう。ほとんど大丈夫恐怖症。前経営者が連呼していたから、なおさら心配なのだ。
「やはりね、スポーツの現場はいいんですよ。みんなで力を合わせ、目の前の勝負に向かっている。そんな彼らを見て、その仕事や夢を奪ってはいけないとつくづく思った。育成組織を含め、現場の成果が出ているのは営業活動にプラスですね。チームの状況を説明すると、皆さん興味を示されます」

 羽生社長はJリーグ事務局長を兼務し、クラブハウスに出勤するのは基本的に週1度。さまざまな事業の進ちょくを確認し、陣頭指揮を執っている。さらに企業回りの仕事が加わるのだから、激務に違いない。
「厳しいことは厳しいですよ。経済状況があまりよくないため、とんとん拍子に出資を決めていただけるところはありません。ヴェルディならではの育成組織などストロングポイントを打ち出し、われわれは世界での成功を目指すといった話をさせていただくと、その夢に乗っかってみようかと思ってくださる方もいます」

 ターゲットとなる企業を絞り込む際、何をきっかけとするのだろう。まさか『会社四季報』をめくり、景気の良さそうな企業を回っているわけではあるまいが。
「そこはスポーツに理解のあることが条件です。時間的に、サッカーに興味のない方に振り向いてもらう余裕はありませんので。これまで仕事を通じて知り合った方々や人から紹介してもらった企業に足を運んでいます。東京Vを成り立たせるために、ひとつの責任企業に任せるという形でなくてもいい。複数の企業が支えるスタイルも視野に入っています」

命運は9月21日のJリーグ理事会で

 それにしても、クラブ公式のアナウンスが少なすぎやしないだろうか。6月29日の株主変更のお知らせ以降、この件について発信された情報はラウンドテーブル(クラブとサポーターの集会)の議事録に限られる。
「正直なところ、余裕がないんです。いろいろ動いていますが、言えないことが多い。先日のラウンドテーブルは用事があって参加できませんでしたから、いずれきちんと話す場を設けたいと思います。それには、早く支援企業との交渉をまとめなければ。そろそろ来季のセールスシートに着手しなければいけない時期になります。今後のプランを作成した上で、サポーターの皆さんと話し合い、協力を求めたい」

 羽生社長は東京Vが存続するための道筋をこう語る。
「まず、今季見込まれる4億数千万円の赤字分をどう埋めるか。できるだけ早いタイミングで経営を引き継いでもらえれば額が小さくなりますから、そのつもりで動いています。そして、来季以降の綿密な事業計画ですね。次の理事会で承認を受けられるよう、すべての回答を用意したい。あとは時間との勝負です」

 東京Vの命運が俎上(そじょう)に載せられるJリーグ理事会は9月21日に行われる。

<この項、了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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