メッツ・五十嵐亮太の変化=マイナーを経て広がる可能性
メッツ傘下3Aバファローで調整する五十嵐(写真は8月9日のもの) 【写真は共同】
その一方で五十嵐がメディアによって踊らされた部分があったことも否定できない。150キロくらいのストレートでは満足してもらえない五十嵐は期待に応えるため、当然のようにスピードという技術と、奪三振にこだわってきた。しかし、渡米1年目の今年、東京ヤクルトからメッツ入りした五十嵐の考えは、環境の変化とともに広がりをみせるようになった。
「もうひとつ変化球を」と言われマイナーへ
その後、五十嵐は調子を取り戻した時期もあったが、マイナー降格を言い渡される。その際、首脳陣からは「もうひとつ変化球を覚えてきてほしい」と言われたという。五十嵐はカーブをマスターし、緩急をつけたピッチングを目指すことにした。
8月15日、メッツ傘下3Aバファローに再降格となった五十嵐は、1週間ぶりのマウンドに上がった。相手はレッドソックス傘下3Aポータケット。この間、「ブルペンも含め、一度も投球練習をしていなかった」からなのか、先頭打者にストレートの四球を与えると、次の打者にもボールが2球先行。思わずマイケル・バレット捕手がマウンドに駆け寄った。だが、五十嵐にはその原因がハッキリしていた。
「最近はツーシームをずっと投げているんです。でも今日は低めを意識しすぎてよくなかった」
習得中のツーシームに見切りをつけたかのように、途中からフォーシームに切り替えた五十嵐は、空振り三振、盗塁死で併殺。そして最後はサードファウルフライに打ち取り、結局10球でアウト3つを奪った。まだ本調子とはいかなかったが2カ月前とは違い、五十嵐のフォームには力感がなかった。
力感ないフォームで動くボールを
「(ロイ・)ハラデーはめっちゃいいですね。ツーシームが92とか93マイル(約148〜150キロ)で、すごく変化する。あれは何なんですかね。めっちゃ動いていますよね。あそこまでいかないにせよ、ボールはやっぱり動いたほうがいい」
恐らくこれは、今年、数カ月間の経験から出てきた言葉なのだろう。具体的には『動かさないと打たれる。動きがよければ打たれない』というような感覚なのかもしれない。マイナーにいる時間を無駄にしたくないと話していた五十嵐は、「使えるツーシーム」の習得に余念がない。理想は「打者の手元でグっと動く、高速ツーシーム」。ブレーブスのティム・ハドソンらが投げる『ワンシーム』にも強い興味を持っている。だが、自分の理想とするところと現実には「正直、開きはある」と言う。モノにするにはまだ時間がかかりそうだ。
では、力感のないフォームについてはどうか。実はこれ、今年のレッドソックス松坂大輔が取り組んでいることととても似ている。両投手とも、『打者から見て軽く投げているようで、ボールがドーンと来る』というイメージ。五十嵐は自分の言葉でしっかりと説明してくれた。
「打者から見て軽く投げている感じで、どの球種も同じ腕の振りで投げられるのが理想。実際、軽い感じで投げた方が、スピードが出なくても、バッターの反応が僕にとっていいし、その方がトータルで安定します」
逆境のなかから見えてくるもの
「もっと力感のあるフォームで投げたら、ストレートはもう少しスピードが出るんですよ、絶対に。速い球の投げ方はできるんですけど、それをやるとトータルバランスが崩れるうえに、ストレートもスピードの割によくない。結局、(表示される)スピードの問題ではないんですよね。一番大事なのは、いい球をコーナーに投げ分けること」
五十嵐は8月12日からわずか2日間のメジャー昇格のあと、マイナーに再降格。さらにその2日後には7時間のバス移動のあと、再びメジャーに呼ばれた。ヤンキース傘下3Aスクラントンでプレーする同級生、井川慶も同様の経験を多々積んでいるが、今月、その井川と再会した影響もあるのだろう。五十嵐はマイナーでの長距離移動、昇格、降格、その他諸々のあらゆることに「そういうもんなんだ」と、軽く流せるようになった。
五十嵐は言う。「最近、技術的なことよりも、精神面なことを追求するようになっていますね」
技術面に固執する傾向があった五十嵐は今、精神面の充実を図りながら、技術の安定、そして向上を目指している。シーズン残り2カ月を切って、ようやくその目に輝けるものが出てきた。
<了>
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