“過激な仕掛け人”新間寿氏が明かす

Gスピリッツ

【(C)原悦生/Gスピリッツ】

 今もなお根強い人気を誇る初代タイガーマスク=佐山聡を発掘したのは、アントニオ猪木の片腕として新日本プロレスを黄金期に導いた“過激な仕掛け人”新間寿氏である。当時、新日本の取締役営業本部長だった新間氏と劇画『タイガーマスク』の原作者・梶原一騎氏が手を組まなければ、タイガーマスクが世に出ることはなかった。
 81年4月23日、蔵前国技館に突如として出現したタイガーマスク。その正体はイギリスで「サミー・リー」として活躍していた佐山聡だった。その裏側にはどんな事実が隠されているのだろうか? 新間氏に改めて話を聞くと、新たな事実が次々と飛び出してきた――。

猪木は条件を聞いてすぐに佐山を選んだ

【(C)原悦生/Gスピリッツ】

「発端はテレビ朝日でアニメの『タイガーマスク二世』の放映をスタートさせることになった時に、梶原先生が“今、視聴率もいい新日本プロレスでタイガーマスク二世を作れないものかな”という相談をテレビ朝日にしたんだよ。それでスポーツ局の方から、私に“梶原先生に会ってもらえませんか?”って話が来たの。梶原先生とは、確か永田町のホテルニュージャパンで会ったんじゃないかな」

――なぜ、そこで猪木さんも新間さんも佐山聡を選んだんでしょうか。それこそグラン浜田もいますし、ジョージ高野でもよかったわけですよね

「猪木は梶原先生の条件を聞いて、すぐに“佐山だ!”と思ったみたいだね。後になって、浜田が“新間さん、何で俺を選んでくれなかったの?”って言ってきたから、“お前のガニ股じゃあ、すぐに正体がバレちゃうよ”って。浜田は“いや、ガニ股は直しますよ”なんて言ってたけどね(笑)」

――プランが浮上してからデビュー戦まで、裏ではかなりのドタバタだったと聞いています

「帰国だってドタバタだったんだから。イギリスを発つっていう日に佐山がヒースロー空港から電話をかけてきて、“新間さん、出国できないんです”って言うんだもん。佐山はちゃんと税金を払ってなかったんだよね。そこで佐山には1時間後にまた電話するように言って、私は福田先生(赳夫=第67代首相)の事務所に飛んで行ったわけ。それで事情を話したら外務省に連絡を入れてくれて、外務省を通じてイギリスの日本大使館が何もかもクリアしてくれたの。後に首相になる人の事務所が動いて、外務省が動いて、イギリス大使館が動いて帰国したんだから、タイガーマスクのデビューは舞台裏も凄かったんだよ」

――スーパーヒーローらしい誕生秘話ですね

「それだけの裏の動きがあったのに、帰ってきた本人は“新間さん、1試合だけですからね!”って言うわけよ(苦笑)」

――デビュー戦の相手に、過去一度も対戦したことがないダイナマイト・キッドを起用したのは、どういう理由からなんですか?

「猪木に相談したら“佐山だったらダイナマイト・キッドが一番いいだろ。ヨーロッパスタイルのレスリングもできるからな”って。でも、私としたら心配でねぇ。一度も対戦したことがないっていうし、佐山が果たしてどんなファイトをするのか、キッドがどう受けてくれるのか…。そうしたら佐山のあの軽やかなステップから始まって、キッドも見事に対応してくれて、蔵前国技館は歓声に包まれて。“もうイギリスには帰すまい”と思ったよ(笑)。試合後は観に来ていた梶原先生のところにすっ飛んで行って、控え室に来てもらって佐山に会わせたの。それから2日ぐらいして、梶原先生の方から“相談したいことがあるから、飯でも食おう”って電話があってね。“これからもずっと出して欲しい。だから、ウチは黙ってタイガーマスクを提供したんだし、これからコマーシャルやいろんなイベントの話が来るだろうから、覚書を交わしてくれ”と。その時、梶原先生は“本来ならウチに全部の権利があるんだけど、アニメをテレビで放映してもらっているし、あんなにいい選手だから、俺は7〜8割よこせとは言わないよ。フィフティフィフティにしよう”って言ってくれたの」

※このインタビューはGスピリッツvol.16に掲載されている新間寿氏のインタビューを再編集したものです。本誌では、佐山聡との出会い、若手時代の印象、ライバルたちとの秘話、タイガー引退の真実なども語っています。

プロレス専門誌「Gスピリッツ」vol.16

【(C)Gスピリッツ】

6月23日発売/発行辰巳出版

【特集】
続・猛虎伝説の最深部を探る

■回想――「佐山聡」と「初代タイガーマスク」
新間寿・元新日本プロレス営業本部長
木村健悟

■回想――「佐山聡」と「スーパー・タイガー」
山崎一夫

■検証――初代タイガーマスクの誕生前夜
サトル・サヤマのEMLL時代
[証言]トニー・サラサール/アルフォンソ・ダンテス/リンゴ・メンドーサ/サングレ・チカナ/アメリコ・ロッカ/エル・サタニコ

“センセーショナル”サミー・リーの足跡
英国マットを席巻した「謎の10ヵ月」を追う

■「牙付き」マスクの謎

■最強の漢が格闘家・佐山聡を斬る
藤原敏男(元ラジャダムナン・スタジアム・ライト級王者)
ビクトル古賀(ソ連功労スポーツマスター)

■クローズアップ
デビュー50周年記念特別企画
カンジ・イノキのアメリカ武者修行
第1回:トーキョー・トムの本土上陸

辻仁成
「ACACIA」と「猪木」を語る

総括――もうひとつのUWF
ユニバーサル・レスリング連盟(前編)
新間寿恒代表

日本プロレス『ゴッチ教室』の全貌
指導者カール・ゴッチの原点

■連載
実録・国際プロレス・第6回
菊池孝(後編)

ドクトル・ルチャのアリーバMEXICO
ドス・カラスとエル・シコデリコ
仮面貴族の賢弟愚弟物語(前編)

原悦生の格闘写真美術館・第16回
「光に導かれたように」
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