樫の女王は2頭いた――GI史上初の同着V=オークス
相譲らず! アパパネ(左)、サンテミリオンの総力戦は決着つかずGI史上初の同着優勝に 【スポーツナビ】
アパパネは牝馬クラシック第一冠のGI桜花賞に続いての連勝を決め、昨年のブエナビスタに続く史上12頭目の春二冠を達成。騎乗した蛯名は1999年ウメノファイバー以来となるオークス2勝目、同馬を管理する国枝栄調教師は同レース初勝利となった。
一方のサンテミリオンは、これがGI初勝利。騎乗した横山典は同レース初勝利で、前週のブエナビスタで制したGIヴィクトリアマイルに続き自身初となる2週連続のGI勝利。また、同馬を管理する古賀慎明調教師は2006年の厩舎開業以来5年目でうれしいGI初勝利となった。
起死回生の一完歩! これが桜の女王の底力だ
体勢不利から同着に持ち込んだ女王の底力に蛯名も「感動しました」 【スポーツナビ】
「向こう(サンテミリオン)に差し返されて、体勢は不利だなと思った」
一度は主戦・蛯名ですら諦めた春二冠。しかし、アパパネは執念の一完歩でデッドヒートに持ち込んだ。
「これまでも色んなことを克服してくれましたが、本当にえらい馬。頭が下がりますね。距離のことを言われていましたが、いい意味でそれを裏切ることができて良かった」
ジョッキーも脱帽したアパパネには戦前、スプリンター色の強い母系から距離2400メートルへの疑問がついてまわり、オークスは厳しい戦いになると予想されていた。しかし、この中間は短い坂路から長い距離を追えるコースでの調教へと変更。「気持ちが長距離へと向くような調整をやってきました」と国枝調教師が説明したように、桜の女王はこの1カ月の間に樫の女王にふさわしいスタイルへとモデルチェンジしていたのだ。
「外枠を逆にいい方向に考えて、ラストは必ずいい脚を使う馬だからスタミナを最後まで残すことを考えて折り合いをつけていきました」
道中のポジションはサンテミリオンを見る形で、中団やや後方。抜群の手応えのまま直線の外を向いた時には、蛯名の感触に伝わる勝利の確信。しかし、午前中から降り続けた雨による馬場悪化が、アパパネを最後まで苦しめる要因となって襲い掛かってきた。
史上3頭目の牝馬三冠へ、蛯名「距離が短くなり楽になる」
2010年5月23日に誕生した2頭のオークス馬(左・アパパネ、右・サンテミリオン) 【スポーツナビ】
いったんは先頭に出るも、内のサンテミリオンに差し返される苦しい展開。万事休すの体勢を自らの根性と底力ではね返した最後のひと踏ん張りこそが、女王のプライドだったのだろう。蛯名が改めて激闘を振り返った。
「同着だったことで、かえってファンの方たちもすごく盛り上がっていましたし、それを見て僕も余計にうれしかったです。感動しましたね。2頭とも死力を尽くしたデッドヒート。素晴らしい競馬だったと思います」
このあとはもちろん、秋のGI秋華賞(10月17日、京都2000メートル芝)で1986年メジロラモーヌ、2003年スティルインラブ以来史上3頭目の3歳牝馬三冠を狙う。
「秋華賞の前にどこかトライアルを使うことになると思うので、そのあたりを目標に。まだまだ良くなってくる馬だと思いますよ」と国枝調教師が語れば、蛯名も「秋はきょうよりも距離が短くなるので、多少は楽になると思います。あとは無事に行ってくれば」と大きく期待。樫の冠は分けたが、もちろん、女王のイスに座るのは自分だけでいい。トリプルティアラのコンプリートへ、秋にはその赤い羽を春よりも大きく羽ばたかせる。