国際大会で生じる金と保険の話=「ダニエルG」のサッカー法律講座
UEFAのプラティニ会長。お金の問題は常に頭を悩ませる 【Bongarts/Getty Images】
・W杯などの国際試合に選手が参加する場合、その選手の所属クラブにはどの程度の代償金が支払われるべきか
・国際試合参加でけがをした選手に賃金を支払うのは誰か
・イングランドサッカー協会や日本サッカー協会などの団体自らは、選手の傷害保険に加入すべきか
ウルマール選手事件
それは、同年11月にアブデルマジド・ウルマールというサッカー選手がモロッコ代表として出場したブルキナファソとの試合を発端とする。彼はこの試合で全治8カ月の大けがを負い、彼の所属クラブのスポーティング・シャルルロワは自分たちが国内のリーグ戦に勝てなかったのは、同選手のけがによるリーグ戦不参加が原因であるとした。
この問題が、欧州内における全クラブにとり極めて重要なものであると認識したG−14(後述参考)は、スポーティング・シャルルロワによるFIFA(国際サッカー連盟)への、負傷したウルマール選手に対する賠償金請求の訴えをバックアップした。
G−14とは2000年9月に創設された団体で、欧州の主要クラブ14から成る。これは、サッカー界において公式な権威は持たないが、UEFA(欧州サッカー連盟)などは、さまざまなクラブの声を代表する影響力のある圧力団体であると見なしていた。元々は、原加盟クラブのUEFAに対する不満が団体の誕生につながったもので、その不満とはUEFAの正式な意思決定プロセスにクラブの声が反映されていないというものであった。
G−14は、上記のウルマール選手のケースのほかにも、国を代表し無報酬でプレーする選手に賃金を払い続けるクラブが被った損害賠償および代償を求めて、高額の8億6000万ユーロ(約1000億円 ※以下、すべて現在のレートで換算)の請求も起こした。
ユーロ2008より代償金が支払われることが保証
G−14からECAへの移行は、双方(UEFA&FIFAとクラブ)にとって至極都合のよいものであった。ECAの設立により、G−14が起こした(またはバックアップした)訴訟問題が取り下げられるのはUEFAとFIFAにとって好都合であったし、またクラブ側には、国の代表選手として所属選手の出場を許可するクラブに対し、ユーロ(欧州選手権)2008より代償金が支払われることが保証された。
多くのコメンテーターが最も意義深いとする合意事項は、FIFAおよびUEFAが統括する決勝トーナメントで、選手の出場を許可するクラブに代償金が支払われることになったことである。ただし、このUEFAやFIFAによる代償金の支払いは、選手が国の代表としてプレーしているときに負傷した場合には適用されない。以下に紹介するマイケル・エシアンの負傷が、その一例である。
支払い額については、例えばユーロ2008においては、UEFAは選手1人につき1日当たり3000ポンド(約40万円)をクラブに支払うことに合意した。ただし、支払いのルールは決勝トーナメントの試合を対象とし、予選試合には適用しない。
UEFAの発表によると、ユーロ2008において総額3200万ポンド(約43億4000万円)がさまざまなクラブに支払われた。また、ユーロ2012では4000万ポンド(54億2000万円)を上回る額が支払われると予想される。UEFAのミッシェル・プラティニ現会長は「有力な選手を提供することによりUEFAやFIFAにばく大な利益をもたらしているクラブは、何らかの代償を受けるべきであるし、利益の配分にあずかるべきだ」と述べている。
W杯・南アフリカ大会では、総額2600万ユーロ(約30億2000万円)がさまざまなクラブに支払われる見込みだという報告がある。これは、選手1人につき1日当たり1000ユーロ(約11万6000円)弱ということになる。さらに、この額は2014年W杯・ブラジル大会では7000万ユーロ(約81億4000万円)にまで上ると言われる。バイエルン・ミュンヘンの顧問弁護士ミカエル・ゲルリンガーによると、当クラブは、ユーロ2008にスター選手を送り出すことで100万ユーロ(約1億1600万円)を得たとしている。