スター候補生・T−岡田を“Watch!”せよ

「あれだけ飛ばせる日本人選手ってそうはおらんよ」

岡田監督期待の長距離砲T−岡田。現在、リーグ3位タイの6本塁打を放つ 【オリックス野球クラブ株式会社】

“Watch!”――2010年、新生オリックスが掲げているスローガンだ。“Watch!”というのだから、その言葉に堪え得るだけのものを、球団はファンに提供する責任を負うことになる。もちろん、勝負事においては「勝つ」ことによってその責任の大部分を果たせるわけだが、それだけではファンに振り向いてもらうことはできないと、岡田彰布監督は言う。
「なんぼ優勝するチームでも、60試合は負けるんやから……。負け試合でも、納得してもらえる何かを提供せんとな。それがスター選手だったりするわけよ。勝負とは関係なく、純粋に見たいと思わせる、そんなスター選手をつくり出すのは、ある意味、俺たち指導者の役目なんや」

 2010年、オリックスの“スター”候補の筆頭はT−岡田だろう。長い滞空時間と、大きな弧を描く弾道はまさに長距離砲の証である。
「そりゃ、魅力的やろ。あれだけ飛ばせる日本人選手ってそうはおらんよ」と、指揮官も彼の潜在能力を高く評価する。キャンプではオフを返上して、昼夜の隔てなくバットスイングを繰り返した成果は確実に現れ始めている。「打席での落ち着きが彼の成長の証拠。どっしりとボールを待つことができている」とは小林晋哉チーフコーチの言葉。周囲のT−岡田を見る目も変わりつつある。

岡田監督に通算400勝をプレゼントした逆転3ラン

 3月31日の北海道日本ハム戦では、9回にウルフの150キロのストレートをレフトスタンドまで運んだ。起死回生の逆転3ランだった。岡田監督に通算400勝をプレゼントした一打でもあった。最高の場面での最高の結果は、まさに選ばれしスターのみが導きだせるもの。

 プロ5年目、22歳のT−岡田が現段階では発展途上、道半ばであることは確かである。6ホーマーはリーグ3位タイの数字(4月26日現在)であるものの、打率1割8分9厘と調子に波があるのも事実。未だ完成を見ない大器にとって、シーズン中も、試行錯誤とそれに伴う微調整の繰り返しなのだ。無安打が3試合続いたあとの4月19日、T−岡田は正田耕三打撃コーチの指導のもと、基本に立ち返ってのティーバッティングに多くの時間を費やした。
「体重移動がうまくできず、軸足にウエイトが残ったままになっている。試合になれば、相手は形を崩しに来るから、練習で形を固めないと……」
 正田コーチのT‐岡田に対する指導にも熱が入る。

「あいつの打席は見ていこう!」と思ってもらえる選手に

「今は試合の打席で、自分のスイングをしっかりすることだけを考えています。それにはタイミングが一番大切です。タイミングさえしっかりとれれば、自分のスイングができますからね」
 日々の試合をこなしながらも、T−岡田にとっては毎日、毎打席が勉強だ。そんな若き和製大砲、オリックスのスター候補選手の成長を、指揮官も認めている。「日に日に良くなっていると思う。あとは、崩されながらも対応できるようになればね」と。荒削りな部分もまたT−岡田の魅力であるが、そんな彼が持つデコボコが、経験と研鑚によってきれいに加工された時、それは未完の大器が本当の意味でのスターになる時だろう。

 満開、全開のスターへの道は緩やかでもなければ、決して近い距離でもない。遠く険しいこの道に、この2010年、T−岡田がどんな轍(わだち)を刻んでゆくか興味は尽きない。「なんぼ、ボロ負けの試合でも、『あいつの打席までは見ていこう!』と思ってもらえるような選手になってほしいよな」。そう言った岡田監督の顔は真剣だ。
 ファンからの公募で決まった登録名の“T”は“T−REX(ティラノサウルス)”に由来する。“浪速のゴシラ”から“T−REX”へ……。彼の進化のプロセスを、皆で注目しようではないか!
 ゴールデンウィークは、“T”を“Watch!”せよ!

<text by 大前一樹>

<了>
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