チームの危機を救ったルーキー今村=バレーボールV・プレミアリーグ
最大のピンチでの起用
試合後、堺の酒井新悟監督は語った。
「今村は内定選手という立場ながら、故障者が多い中で、よくここまでチームを立て直してくれました。本当に頑張ってくれた。彼の無我夢中なプレーを見て、周りの選手が彼をカバーしようと奮起した。その相乗効果でチームが一つにまとまり、ここまで勝ち進んでこられたのだと思います」
堺に衝撃が走ったのは開幕1カ月後の1月16日だった。正セッターの金井修也が試合中に左手第四指中手骨を骨折。全治10週間の大けがだった。チームに残されたセッターは、昨シーズン試合出場のない22歳の島田桃大と、順天堂大在学中の内定選手、今村のみ。「7位、8位という順位が頭をよぎった」(小田勝美部長)。最大のピンチに、酒井監督は公式プログラムにもまだ名前が記載されていない、チームで最も大きな背番号をつけた今村に白羽の矢を立てる。
今村「コートに立てるのが楽しかった」
今村はリーグをこう振り返る。
「こんなに早く出番が回ってくるとは正直、思ってもみませんでした。でも周りのアタッカーに“どんなトスでも打ってやるから”と言われ、心にゆとりができました。リーグの中盤、相手に自分の配球が分析されているんじゃないかと、考え過ぎて何度か壁にぶち当たりましたけど、『内定選手なのに出させてもらっているんだ』という感謝の気持ちの方が大きかった。大学時代はあまり試合に出られなかったので、とにかくコートに立てるのが楽しかったです」
中学1年からバレーを始め、セッター一筋でやってきた。順大は主にツーセッター制を用いていたため、大学リーグでの今村の出番は少なかった。V・プレミアリーグでプレーしたいと願ったが、進路が決まる時期になっても、声を掛けてくれるチームは一つもない。そこで、堺の夏合宿に自らテスト生として参加し、やっと契約にこぎつけた。そんな今村にとって、国内最高峰の試合でトスを上げることはプレッシャーよりむしろ喜びだったと話す。
優勝決定戦の直後、最優秀新人賞の受賞者として今村の名前が呼ばれると、堺はもちろん、パナソニックの応援席からも大健闘したルーキーに大きな拍手が送られた。トロフィーを受け取り、記念撮影をする間も、最後まで今村の表情は硬いままだったが、その働きをベンチで見守ったセッターの金井はきっぱりと言った。
「今村がいたから、ここ(優勝決定戦)まで来ることができたんです」
新人セッターにとって長く、濃い体験となったリーグ戦は準優勝という結果で幕を閉じた。
リベンジを誓うルーキー
「セミファイナル以降のトスは反省ばかりです。勝負どころでの相手ブロックの読みと、それを見抜けなかった自分の配球が勝敗を分けてしまった。もっとアタッカーを信じてトスを上げられるセッターになりたいです」
コートに立てる喜びと、目の前で優勝を逃す悔しさ、両極を味わったルーキーは、次の舞台でリベンジを誓っているに違いない。
<了>
■プロフィール
今村駿/堺ブレイザーズ所属
1987年7月20日生まれ。千葉県出身。東京学館総合技術高−順天堂大。身長181センチ、最高到達点330センチ。ポジションはセッター。東京学館総合技術高時代の最高戦績は3年時インターハイで全国第3位。順大では主将を務める。2009−10V・プレミアリーグで最優秀新人賞を受賞。
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