選手のサラリー高騰がクラブをつぶす=プラティニの目指す欧州サッカーの透明性

「フィナンシャル・フェアプレー・コンセプト」

欧州サッカーの透明性を目指すプラティニの戦いは続く 【Bongarts/Getty Images】

 近年、ヨーロッパの各クラブはスター選手の獲得を第一優先とし、莫大な資金を投入してきた。その結果、欧州サッカー界は70億ユーロ(約8430億円)を超える負債を抱えるに至り、その額は何カ国かの対外債務を軽く超える。だが、こうした潮流を是正するため、新たな動きが出てきた。
 2009年9月、UEFA(欧州サッカー連盟)理事会は欧州サッカー界の健全な発展を目的とし、「フィナンシャル(財政的な)・フェアプレー・コンセプト」を承認。UEFAを構成する加盟53協会、1300クラブの08年の経営状況などを記した80ページを超えるリポートを発表した。

 現役時代は華麗なプレーで人々を魅了したミッシェル・プラティニは現在、UEFAの会長を務めている。FIFA(国際サッカー連盟)の現会長ジョゼフ・ブラッターとも近しく、時期FIFA会長との呼び声も高い。このフランス人会長が精力を傾けているのが、欧州クラブの経営の透明性を確立し、経済的な公平さを作り出すことである。特に、イングランド、スペイン、イタリア、ドイツの主要リーグのクラブについて、移籍金を釣り上げ、しばしば自らが袋小路に陥っていると糾弾している。

 プラティニは、クラブ経営が危機に瀕している南米で頻発している事態を注視する一報で、欧州のクラブに警鐘を鳴らす。もし、クラブがスーパースターと契約し、試合に集中するためと最高級のホテル、ジェット機での移動といった至れり尽くせりの環境を選手たちに与えたとしたら、お金がいくらあっても足りないだろう。ライバルに勝つためと言いながら、こうして負債は山積していくのだ。プラティニが目指しているのは、クラブを取り巻く経済システムを刷新することである。

財政を圧迫する人件費

 このリポートによれば、欧州クラブの負債のうち70%がイングランドとスペインのクラブによるものだ。プレミアだけで40億ユーロ(約4800億円)に上り、全体の56%を占める。つい先日もプレミア最下位に沈むポーツマスが巨額負債を抱えて破産申請を行い、勝ち点9をはく奪されたばかり。2部降格は免れない状況となっている。次いで、スペインのクラブが10億ユーロ(約1200億円)の負債を抱えており、これは欧州全体の14%である。

 負債が多い3番目のリーグはイタリアだが、その額はスペインの半分に当たる5億ユーロ(約600億円)だ。イングランドやスペインと比較して出費が抑えられており、近年ささやかれるイタリアサッカー界の凋落(ちょうらく)ぶりを如実に表している。それは、欧州のカップ戦での低迷ぶりを見ても分かることだ。

 また、欧州1部リーグの732クラブのうち、54%が収支で損失を計上しているという。07−08シーズンの732クラブの収入は115億ユーロ(約1兆3900億円)であるのに対し、支出は121億ユーロ(約1兆4600億円)。平均でそのうちの61%は人件費に充てられており、財政を圧迫している。選手のサラリーを含む人件費は前年比で18%増だ。さらに、198クラブは人件費が収入の70%を超え、うち57クラブは100%を超えるというから狂気のさたとしか言いようがない。

広がるクラブ間の格差

 平均観客動員数(08−09シーズン)では、ドイツが4万2565人でトップ。イングランドの3万5630人、スペインの2万8276人と続く。平均観客数が2万人を超えるのは、上記のリーグに加え、イタリア、フランスの計5カ国だけだ。

 そのほか、報告書で重要な要素といえば、クラブ間の不均衡が挙げられる。欧州のクラブの全収入の67%は、上位10%に属するクラブが計上している。つい先ごろ、監査法人デロイトが08−09シーズンの世界のサッカークラブの長者番付を発表し、レアル・マドリーが4億140万ユーロ(約484億円)でトップに就いたが、格差は広がるばかりだ。

 プラティニは「クラブの収入が増え続ける一方で、すべてコストに吸収されてしまい、借金や株主の出資に頼ることになる」と、現状のクラブ経営を批判する。こうした状況を改善すべく打ち出したのが「フィナンシャル・フェアプレー・コンセプト」だ。と同時に、UEFA会長の厳しい目は、八百長の撲滅にも注がれている。「試合の買収に加担した者は、二度とサッカー界に戻れなくなるようにする」と語るなど、厳しい態度での臨むことを明言した。フィナンシャル・フェアプレーの実現、違法賭博および八百長行為との戦いは今後も続いていく。

 プラティニは果たして、使命を達成することができるだろうか?

<了>
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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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