藤原正和が初V 不遇時代からの復活劇=東京マラソン・総括

加藤康博

4位に入った川内 箱根ランナーから公務員へ

 今回、目を引いたのは4位に入った川内優輝(埼玉陸協)。彼は実業団選手ではなく、学習院大から埼玉県職員への道を選択した公務員だ。大学時代には学連選抜のメンバーとして箱根駅伝にも2度出場し、最終学年では6区で区間3位という実績を持つ。しかし実業団への道を選ばず、市民ランナーとして限られた練習時間で競技を継続している。今回、4度目のマラソンで日本のトップクラスと互角の戦いを見せた「いつも前半に突っ込みすぎてつぶれていましたから、今日はスローペースになったのが幸いしました。そして気温が低かったのも自分にとっては良かったです」と、コンディションも川内にとっては好条件だった。今後は「年末の福岡国際マラソンで2時間10分を切りたい」と、笑顔で振り返った。

 また初マラソン組のトップは、幸田高明(旭化成)の8位が最高。期待された北村聡(日清食品グループ)は25キロを過ぎてから先頭集団から離され、2時間27分15秒の31位に終わった。「準備の段階で甘さがありました。途中でやめないことは決めていたので、試練だと思って走りました。今は収穫は見えませんが、この経験を生かしていかなければならない」と神妙な面持ちで、先を見据えた。

佐藤「危機感を持ってやらなければ」

40キロ過ぎにスパートをかけた藤原正に食らい付こうとした佐藤だったが、結局追いつくことができずに、3位に終わった 【スポーツナビ】

 澤木啓祐日本陸上競技連盟専務理事はこの結果に対し「条件の悪い中、40キロからゴールまでを6分40秒でカバーしたラストは最近の日本人選手では見られない強さ」と今回の藤原正の勝利に対し、評価を示した。
 今、日本男子マラソンに求められるヒーロー。今回、若手の台頭が見られなかったことは残念だが、藤原正が復活したことは明るいニュースだ。そして海外から招待選手が力を発揮しなかったことを差し引いても、日本人間のトップ争いは経験値を重ねる点でも、意味のあることだろう。
 世界のスピード化に対して問われた藤原正は「日本人でも(2時間)6分台は出せるし、今回、自分もそれだけの練習をしてきました。今度はタイムも狙えるレースに出場し、自信をつけてオリンピックへ挑みたいです」と、31歳で迎える2012年のロンドン五輪を見据える。次は世界標準のスピードの中でどこまで戦えるか注目される。
「もっと危機感を持ってやらなければ」とは佐藤がレース後に語っていた言葉だ。実績のあるベテラン勢がさらに切磋琢磨(せっさたくま)していく状況になれば、若手への刺激にもなるだろう。現状を嘆くばかりでは未来は切りひらかれない。反省と同時に収穫を探し、次代への武器としていくことも今の日本男子マラソンには求められている。

 <了>

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著者プロフィール

スポーツライター。「スポーツの周辺にある物事や人」までを執筆対象としている。コピーライターとして広告作成やブランディングも手がける。著書に『消えたダービーマッチ』(コスミック出版)

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