節目を迎えた夏見と福田=クロスカントリー女子リレー

高野祐太

現役続行に懸けた思い

 前回のトリノ大会のチームスプリントで、当時、日本女子史上最高となる8位入賞を果たした31歳の夏見と29歳の福田が、この種目を最後にバンクーバーでの戦いを終えた。福田はトリノ五輪で、夏見はトリノの翌シーズンに地元・札幌で行われた世界選手権で一度は引退を覚悟している。それでも競技を続ける意味を見いだし、たどり着いたバンクーバーまでの道のりだった。結果は、夏見が個人スプリント・クラシカルで準々決勝敗退の27位。福田が10キロフリーで52位。トリノと同様に2人で臨んだチームスプリントも決勝進出ができず13位に沈んだ。この数字だけを見れば、決して良かったとは言えないのだが……。

 福田は、引退覚悟だったトリノで、思いのほかいいパフォーマンスができている自分に気付く。「自分が世界大会でそんなに走れたのは初めてでした。自分ももっとやれると気付かされ、現役を続けようという気持ちがふつふつと沸いてきたんです」。だが、一度は引退を考えた頭の中を切り替える作業は、予想以上に難しかった。それからの期間を福田は苦しみ続ける。練習環境でも自分のペースを作ることがなかなかできなかった。昨季の世界選手権の時点でもそれは解消できなかった。

 転機はその直後。「成績が出ないならば」とコーチと話し合い、世界選手権以後のワールドカップ転戦を回避し、日本国内でリフレッシュすることにした。「実家に戻って、夜空を見上げたりして」自分を取り戻す。3月の全日本選手権で本来の滑りが戻り始めると、オフを短めに切り上げて練習を再開した。自然と意欲がよみがえっていた。ディスタンス系(長距離系)の強化を取り入れた地元でのトレーニングも功を奏し、最大酸素摂取量の数値が自己最高を出すまでになっていた。

夢と現実のはざまで

 バンクーバーは好成績という形で表れなかったが、団体スプリントで見せた動きの良さ、周回ごとに順位を上げた走りは、恐らくはこの1年間に積み上げてきたことの成果だった。「自分の思い描いてきたことが実現できなかったことは現実なので、受け止めるしかありません。でも、最後まであきらめず、自分の今持っている力を出し切ることはできたので、悔いはありません。これまでやってきたことは無駄ではなかったです。サポートしてくれた人たちに感謝の気持ちでいっぱいです」

 夏見はスプリント2種目での不振をばん回する走りを見せ、「今回初めて自分の力を出せました」と、ホッとしたような表情を見せた。「(バンクーバーを終えて)全般的にパーフェクトな走りができなくて悔しい部分が多かった。でも最後のチーム戦で、自分の滑りまでいかなくても、トップ選手に食らいつく走りができたので、最後にチームに貢献できて良かったです」

 来季の世界選手権など次の目標はあるかもしれないが、夏見と福田の2人がバンクーバーで一つの大きな節目を迎えたことは間違いない。必ずしも満足できない結果だったにしても、この4年間に歩んできた足跡の、最後の一歩をしっかりと踏みしめたのだという手応えは見いだせたであろう走りだった。

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著者プロフィール

1969年北海道生まれ。業界紙記者などを経てフリーライター。ノンジャンルのテーマに当たっている。スポーツでは陸上競技やテニスなど一般スポーツを中心に取材し、五輪は北京大会から。著書に、『カーリングガールズ―2010年バンクーバーへ、新生チーム青森の第一歩―』(エムジーコーポレーション)、『〈10秒00の壁〉を破れ!陸上男子100m 若きアスリートたちの挑戦(世の中への扉)』(講談社)。

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