再び始まった“真の女王”たちの戦い=全豪テニス・女子シングルス総括

テニスネットPro

パワーのセリーナvs.技のエナン

セリーナ、現役復帰した元女王のエナンを下し2連覇を達成 【Photo:Getty Images】

 全豪オープン2010の女子シングルス決勝で、トップシードのセリーナ・ウィリアムズ(米国)がワイルドカードとして出場していた元ナンバーワンのジュスティーヌ・エナン(ベルギー)を6−4、3−6、6−2で降し、2年連続5度目の全豪オープンタイトルを獲得した。

 第1セット、試合の序盤でセリーナは神経質になり、何度もエナンにブレークポイントを握られていた。しかしそのたびセリーナは力強いサービスで窮地を脱し、第4ゲームでこの試合最初のブレークを奪っていた。エナンはその後ブレークバックを果たすが、2つのダブルフォールトで自らを追い込み、そのままセリーナにセットを先取されてしまった。

 準決勝まで面白いように決まっていたネットプレーが影を潜めるエナン。第2セット開始後も、第3ゲームではセリーナの油断を見逃さずバックハンドのパッシングでブレークを奪うも、セリーナがすぐにブレークバックを果たす。しかし、代名詞とも言えるようなバックハンドダウンザラインが決まると、エナンのプレーにリズムが戻った。最後は怒濤(どとう)の10ポイント連取で2つのブレークを奪い、試合はファイナルセットにもつれ込んだ。

 サードセットになってもエナンの攻勢は続いた。ラブゲームでオープニングゲームをキープしたあと、続くセリーナのサーブで2つのブレークポイントを獲得しトップシードを追い込んだ。しかしここでセリーナは渾身(こんしん)のサービスエースを放ち、この大ピンチを脱する。そしてこのビッグチャンスを生かせなかったエナンに、今度はピンチが訪れる。ダブルフォールトで30−30となった後、セリーナはセカンドサーブのリターンをストレートにたたき込みブレークポイントを獲得。このゲームを奪ったセリーナはこの後3ゲームを連取。勝負どころでエースを決めたナンバーワンはバックハンドクロスウィナーでこの試合を締めくくった。

元女王の復活で厚みが増した女子ツアー

現役復帰後、最初のグランドスラムに臨んだエナン。勢いある若手を下し、決勝に上りつめた 【Photo:Getty Images】

 セリーナはこれが12度目のグランドスラム制覇となり、米国の大先輩ビリー・ジーン・キングに並んだ。彼女の次の目標はクリス・エバート(米国)とマルチナ・ナブラチロワ(米国、※現在はチェコとの二重国籍)の持つ18個のメジャー記録となる。

 一方のエナンは決勝で敗退したが、この大会における彼女の連勝は目覚ましいものであった。“死のブロック”と言われるボトムハーフの一角から、第5シードのエレナ・デメンティエワ(ロシア)、次代のトップ10と目される後輩のヤニナ・ウィックマイヤー(ベルギー)、今大会の台風の目となったナディア・ペトロワ(ロシア)と中国のジエ・ジェンを次々と倒し、復帰2大会目ながらも全豪オープン決勝までたどり着いている。

 サービスにはまだ改善の余地が残っているようだが、ウィンブルドンタイトルを視野に入れたネットプレーの充実と勝負どころでのメンタルの強さを見る限り、エナンは明らかにトップ5に匹敵する実力を保持している。

 セリーナはグランドスラムという舞台ではほとんど無敵状態であった。しかし2人の元ナンバーワン、キム・クライシュテルス(ベルギー)とエナンの復帰は女子ツアーに新たな波を起こすだけでなく、現ナンバーワンのセリーナにも強烈な刺激を与えてくれることだろう。

 WTA女子ツアーはまだ始まったばかりだ。これから米国のハードコートシーズンに向けて各選手が調整を続けていく。全豪オープンで序盤敗退したマリア・シャラポワ、ディナラ・サフィナを中心とするロシア勢、そしてアナ・イバノビッチ、エレナ・ヤンコビッチのセルビア勢らも捲土(けんど)重来を期しているだろう。そして日本のクルム伊達公子(エステティックTBC)や森田あゆみ(キヤノン)にもいつか必ずチャンスが訪れるはずだ。2人の元ナンバーワンが現役復帰したことで急激に厚みが増した女子ツアー、これからも非常に熱い戦いが世界各地で繰り広げられることだろう。


<了>
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