明暗を分けたミランとユベントス=新米監督の下で悪戦苦闘中

宮崎隆司

ユベントスは2人のブラジル人選手が誤算

ジエゴ(左)の存在が中盤の構成を難しくし、新システムにチームも順応できていない 【Getty Images】

 シーズン開幕前、潤沢な資金を持つインテルは別として、不況の風吹き荒れるイタリアサッカー界にあって、ユベントスはおおよそ70億円規模の補強を敢行。しかも、その金額はほぼわずか2人の獲得のために費やされた。それがフェリペ・メロとジエゴであったこと、さらにはファビオ・カンナバーロの復帰も手伝って、国内クラブで最高の戦力拡充に成功したと称賛されていた。センターバック(カンナバーロ)、守備的MF(フェリペ・メロ)、トップ下(ジエゴ)。この中央の軸が補強されたことで、“打倒インテルの本命”と言われるだけでなく、“スクデット候補の筆頭”と一部では見られていたほどだ。

 だが、現状(第17節終了時)を見る限り、あくまでもクラブ首脳の力不足に失速の要因があると言わざるを得ない。鍵となるのは、ほかならぬ補強の目玉であったブラジル人選手2人。この起用法と獲得の仕方そのものに問題がある。
 まずはフェリペ・メロ。昨季のフィオレンティーナで見事な活躍を見せたこの守備的MFに、ユベントスは、よりレジスタ的な意味合いの強い役割を課している。当然、そのプレーエリアは昨季に比べて前方にスライドする。だが、そのメロの背後をカバーする枚数が希薄であるため、中盤でボールを奪われた直後の守備に極端なまでのもろさを露呈してしまう。
 それをシーズン開幕当初は若いクラウディオ・マルキジオが献身的にカバーしていたのだが、その彼が10月に入ってすぐに故障し、およそ1カ月半にわたって欠場を余儀なくされると微妙なズレが生じ始めた。メロ自身の守備も狂いを見せるようになり、ついには今季の最も重要な試合で致命的なミスを犯してしまう。

 CLグループリーグ最終節のバイエルン・ミュンヘン戦。ユベントスの2失点目のことだった。中盤での攻防ではないのだが、バイエルンのクロスに対して、自陣ペナルティーエリア内でマークすべきファン・ブイテンをメロは完全に離してしまったのだ。
 ファン・ブイテンにまったくのフリーでヘディングを許し、それをGKブッフォンがはじくもオリッチが詰めてゴール。試合はこれで決まったも同然となった。そのほか、ディフェンスラインの前で何度も容易にボールを奪われ、そのたびに味方を難しい守備の局面に陥れてしまった。
 現代サッカーにおいて、自陣のディフェンスライン前、しかもピッチの中央エリアでボールを奪われることほど危険なことはない。よって守る側はそこを徹底してケアし、逆に攻める側はそこにどうやって穴を作るかを執拗(しつよう)に研究する。この応酬が続く中で、メロはあまりにも不用意な守備を続けていた。さらには、そのズレを修正できないまま、実質的に中盤の底が1枚となる4−3−3を敷いたフェッラーラ監督のさい配にも疑問が残る。

 だが、中盤でロンボ(=ダイヤモンド型)を敷かざるを得なかった事情がフェッラーラにはあった。ジエゴの存在だ。パベル・ネドベドが引退し、その代わりにまったくタイプの異なるジエゴが入ったことで、昨季までの4−4−2は使用不可となり、必然的に中盤をロンボとする以外なかった。これにチームが順応し切れていないというのが実情だ。
 しかも、このジエゴをユベントス首脳は監督人事を決める前に獲得している。開幕前、アントニオ・コンテやマルコ・ジャンパオロらの名が新監督候補として取りざたされたが、そのドタバタ劇の中で早々にチーム戦術の鍵となる選手を獲得していたわけだ。結果として、昨季の終盤にクラウディオ・ラニエリ(現ローマ監督)の後を継いだフェッラーラが引き続き今季も指揮を執ることになったのだが、この事実は、監督の意向が反映されずにチームの形(システム)が決められていたことを意味する。
 例えば、ファビオ・カペッロが監督であった当時には絶対に起こり得なかった現象である。就任が確定的とされていたアントニオ・コンテが土壇場でオファーを断ったのも、結局はこのジエゴ獲得が最大の要因であったと言われている。

CL敗退、格下に敗戦と負のスパイラルに陥る

 チームは新システムを機能させるべく模索した。だが、同時にちぐはぐなプレーを繰り返し、そこに故障者続出という事態が加わると歯車は完全に狂い、ついに決定的な敗戦を喫してしまった。
 件のバイエルン戦から4日後のセリエA第16節、今季からAに昇格したばかりのバーリを相手に、ユベントスはまさかの惨敗(1−3)。CL敗退というショックを引きずっていたとはいえ、その内容はあまりにもふがいないものであった。この試合、メロではなくポールセンを起用し、右にはカモラネージではなくチアゴを配して厚い中盤で臨んだのだが、これを弱小クラブであるはずのバーリに難なく破られた。
 わずかなシステム上のズレが選手個々のプレーを狂わせ、CLからの撤退という重い事実が突きつけられると、それが精神的なダメージとなってチームの士気を極端に低下させる。紛れもない負のスパイラルに陥っていると言うべきか。

 続く第17節、ユベントスは最下位カターニアを相手に、またしても敗戦の屈辱にまみれた。直近の6試合(CL2試合、ボルドー戦とバイエルン戦含む)で5敗。得点5に対し、失点は14。その結果、ここにきてユベントス首脳は、ロベルト・ベッテガのフロント入りを決めようとしている。
 ベッテガは、ルチーアノ・モッジ、アントニオ・ジラウドとともに“Triade(3巨頭体制)”の一角を占めた人物である。06年の“モッジ事件(カルチョ・スキャンダル)”で職を追われていたベッテガが、3年ぶりに復帰するかもしれない。もし正式決定となれば、それは言うまでもなく、現ユベントス首脳が自らの力量不足を宣言することになる。サッカー界の裏を知る存在なくして移籍市場で効果的な補強はできない。よって、その裏を知り抜くベッテガに再建を委ねるのです、と。

 首位インテルとの差は勝ち点9。2位ミランとの差は同1で、09年の日程を終えている。そして年明け(第18節=1月6日)は、今季好調をキープするパルマとの対戦で幕を開ける。それまでに、この迷走状態から脱することができるのか。ベッテガの去就、監督人事、メロとジエゴの復調等々……。名門ユベントスが抱える問題は文字通り山積している。だが、時間は待ってくれない。パルマ戦の後、第19節(1月10日)には、ホームでのミラン戦が控えている。

<了>

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著者プロフィール

1969年熊本県生まれ。98年よりフィレンツェ在住。イタリア国立ジャーナリスト協会会員。2004年の引退までロベルト・バッジョ出場全試合を取材し、現在、新たな“至宝”を探す旅を継続中。『Number』『Sportiva』『週刊サッカーマガジン』などに執筆。近著に『世界が指摘する岡田ジャパンの決定的戦術ミス〜イタリア人監督5人が日本代表の7試合を徹底分析〜』(コスミック出版)

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