東京V、新しい形の都市型クラブへ=崔暢亮会長インタビュー

海江田哲朗

東京から出ていくことは全く考えていない

東京Vは新しい形の都市型クラブへの脱却を実現できるだろうか 【Photo:YUTAKA/アフロスポーツ】

――聞くところによると、Jリーグに対しては東京V存続のために大変な熱弁を振るったそうですね

 言い続けたのは、自分たちは従来の親会社頼みの経営から脱却し、新しい形の都市型クラブを作ろうとしていること。かつて、このクラブにお世話になった人間が会社組織を立ち上げ、経営に乗り出したのは初めてのことです。その意義を理解し、どうか認めてくださいとお願いしました。本当のサッカークラブの姿がそこにあるんですよ、と。

――予算を圧縮し、収支のバランスを保つためには、どのような対処が必要ですか?

 同規模のクラブと比べ、スタッフの人数が多いのは確かです。今はクラブの機能を点検しながら人を観察しているところで、個人のスキルは高いと感じますよ。ただし、これからはひとり3役くらいこなす能力が求められる。その上で「あなたは本当にこのクラブが好きですか?」「報酬が下がったとしてもモチベーションを高く保ち、意欲的に取り組めますか?」と、問い掛けていくことになります。酷かもしれませんが、そうしないと経営が成り立たない。

――懸案事項の1つ、よみうりランドに支払うグラウンド・クラブハウス賃借料(推定年間約3億7000万円)の減額交渉はどうなっていますか? 先方には市場価格に照らし合わせて、3分の1程度にプライスダウンしてほしいと求めているそうですが

 交渉が続いています。とりあえず、来年まではここを使用することで合意していますが、その先は予断を許さない状況です。互いの妥協点を探り当て、無事契約までこぎ着けられれば、そこから複数年契約を希望します。

――折り合えず、来季に突入することは?

 それはないでしょう。こういった話し合いは、どこかで必ず折り合えるものです。もし、こちらの希望する額とかけ離れすぎているのであれば、都内のほかの場所へ移ることも検討しなければなりません。

――一部の新聞や雑誌で、地方移転の可能性が報じられました

 ああ、あれですね(笑)。福島県や岩手県という。はっきり申し上げます。人づてに何がどう伝わったのか判然としませんが、われわれがそのことを話した事実は一切ありません。東京から出ていくことは全く考えていない。断言します。絶対にない。あり得ないです。

5年以内には昇格を成し遂げたい

――それを聞いて、ひと安心です。では、今後のチーム強化について話を聞かせてください。まず、総予算から導き出される、選手・チームスタッフ人件費(育成組織の監督・コーチも含む)は3億円といった線でしょうか?

 その数字を下回ります。クラブ経営を最優先する現状、それほど予算は割けません。考えてみてください。今季のJ2で東京Vよりチームの人件費を抑え、好成績を残しているところが何チームあるか。彼らにできて、われわれにできないはずがない。むしろ、育成組織がしっかりしている東京Vのようなクラブこそ、やるべきなんです。

 よって、向こう2年間は徹底的に選手を鍛えます。そして、3年目から勝負を懸ける。最初のチャレンジで成功できるかどうか定かではありませんが、遅くとも5年以内には昇格を成し遂げたい。過去の例を見ると、計画的に力を蓄えてJ1に上がったチームなら、その時点でリーグ中上位の力は備えているものです。そこから日本一、アジアチャンピオンを目指します。

――強化アドバイザーに就任したOBの川勝良一氏は、そのような長期的なスパンのチーム作りを進める上で適任という判断ですか?

 そうですね。今季のチームが懸命に戦っている現時点で、来季以降のチーム編成のプランをお話しすることはできませんが、重要なポジションに就くと考えていただいて結構です。

――育成アドバイザーには、崔会長のユース時代の同期である都並敏史氏を招へいしました
 
 育成組織の指導者に関しては、ほぼOBで固める予定です。来季、都並が全体を統括する育成ディレクターの立場になるのか、それともある年代に特化した監督に就任するのか、そこはまだ決まっていません。

――行き過ぎた純血主義がもたらす弊害についての心配は? 主だった生命体は血が濃くなり過ぎるとやがて弱体化します。それでも今は、内部の結束を強めることを優先しますか?

 要職には読売イズムを知る人間を置きますが、新しい風も入れるべきだというのがわたしの考えです。全員を仲間内で回すつもりはありません。監督がOBなら、コーチは別の人材を。事業計画を上回る収入の見込みが立てば、ひょっとするとサプライズ人事があるかもしれませんよ(笑)。この話はそのときまで取っておきましょう。

――最後に、サポーターにメッセージを。こんなことをしてもらえたらありがたいといった要望がありましたら是非お伝えください

 せっかく応援に来ていただいているのに、いい試合を見せられずに申し訳ない気持ちです。ただ、どんな状況であれ、少しずつでも支えてくれる人を増やしていかなければなりません。どうか、最後までスタジアムに足を運んで、チームを励ましてください。われわれはそれに報いるよう最大の努力をします。心からのお願いです。

<了>

崔暢亮/Sai Nobuaki

1961年4月5日生まれ。東京都生まれ。1976年〜80年に読売サッカークラブのユースに所属。選手時代は50メートルを5.8秒で駆ける快足ウイングだった。2000年に発足したCLUB1969(読売サッカークラブ〜東京ヴェルディOB組織)では、事務局員を務めた。10月21日、株式会社日本テレビフットボールクラブから社名を改める東京ヴェルディ1969フットボールクラブ株式会社の代表取締役会長に就任する

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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