井川慶、マイナーで過ごした渡米3年目=来シーズンへの決意とは!?

カルロス山崎

メジャー昇格のチャンスは

ヤンキース傘下の3Aで1シーズンを過ごした井川 【カルロス山崎】

「クラブハウスに行きたいんだが、どうやって行けばいいんだ?」。

 ヤンキース傘下3Aスクラントン・ウィルクスバレー・ヤンキース(以下、SWBヤンキース)の本拠地、PNCフィールドの正面入り口付近でウロウロしていた男に懇願され、クラブハウスまで連れて行った事がある。彼は、急きょ3Aにコールアップされ、飛行機を乗り継いでやってきたという、ドミニカ共和国出身の若い選手。これもマイナーリーグの一コマというか、常にこんなことが起こっているのだろう、そう感じたのを覚えている。

 マイナーリーグ、特にメジャーリーグと2Aに挟まれた3Aの動きは凄まじい。昇格、降格はもちろん、移籍、解雇も頻繁で、解雇の後の出戻りも珍しくない。これに、契約問題も絡んでくるから、チームを統括しているゼネラル・マネジャーの仕事がいかに大変で、複雑かということが分かる。

 SWBヤンキースの場合、2009年は投手のやりくりと悪天候に悩まされたシーズンだった。開幕した4月の先発ローテーションは、ジョンソン、ケネディ、アセベス、ヒューズ、そして井川慶の5人で始まったが、そのローテーションは、2回も回れば誰かが抜け、そして、どこからか来た投手が新たに加わるという繰り返しで、シーズン終了までその役割を担ったのは、幸か不幸か、井川一人だけだった。

 多くのチームメートがメジャー昇格を果たし、オプションで戻ってきたりもした。だが、井川にはそのような機会はおろか、気配さえ訪れなかった。過去2年は、メジャーリーグのマウンドに立ったが、渡米3年目は結局、シーズンを通してマイナーで過ごした。

「(昇格の判断は)自分でコントロールできることではないですし、仕方がないですね」
 こう淡々と話した井川だったが、では、なぜ、彼にメジャー昇格の機会が訪れなかったのか。井川は、自ら残した結果、数字、成績について冷静に振り返った。

「与えられたポジションでベストを尽くす、そういう気持ちで臨んだ1年でしたけど、防御率(4.15)が悪すぎたと思います。何だかんだ言って、防御率が良ければ目に留まると思いますから」

5年契約の4年目へ向けて

【カルロス山崎】

 他チームも含め、メジャーに昇格した先発投手の傾向の一つとして、“低い防御率”が挙げられる。もちろん、防御率がすべてではないが、井川は26試合に先発し、10勝8敗、気にしていた防御率は、4.15(リーグ17位)だった。昨シーズン、リーグ4位の3.45だったことを考えると、「残念なシーズンだった」ということになるが、そこには2つの要因があると考えられる。

1.被本塁打の多さ

 被本塁打21本は、リーグ1位タイという不名誉な記録となった。特に4月は、4試合で9本塁打と集中。春先は、強風に運ばれた不運な本塁打も多々あったが、甘く入ったカウント球や勝負球を痛打されたケースも多かった。

2.左肘(ひじ)痛

 7月下旬から左肘付近の筋肉が痛み出した。その影響で、ストレートが走らず、腕も強く振れないことから変化球のキレを欠いた試合もあり、8月は1勝4敗、防御率5.28と精彩を欠いた。それでも、入念なマッサージなど登板間の調整に工夫を加え、ローテーションから外れる事はなかった。

 ところで、これは井川に限ったことではないが、悪天候がチームに与えた影響は大きかった。今シーズン、SWBヤンキースが余儀なくされた雨天延期は23試合を数え、予定されていた144試合のうち3試合は日程の調整がつかず、キャンセルとなった。結局、組まれたダブルヘッダーは21回。PNCフィールドは夏場の集中豪雨により、右翼付近の芝生が張り替えを強いられるほどグチャグチャとなり、やむを得ず、敵地や空いている他球場でホームゲームを行ったこともあった。よって、先発投手たちはいつ投げるか分からないブルペン陣のような準備を求められたが、これには井川も「こればかりはね……。でも、いい経験だったと思います」と苦笑いを浮かべるしかなかった。

 昇格も降格も、上と下との兼ね合いが影響するものだが、今シーズンの井川は“絶好調”だった時期に、上の駒は揃っているという、ツキのなさもあった。例えば、5月は6度先発して3勝1敗だったが、37イニングを投げ、防御率は1.46、被本塁打もわずか1本と安定したピッチングを見せたが、4月にヒューズが昇格していたこともあり、呼ばれるには至らなかった。一方、上が誰かをコールアップする必要に迫られたとき、井川は左肘に不安を抱えているという始末で、結局“その日”が来ることはなかった。

 毎試合、投手陣の詳細レポート(報告書)を“上”にメールしているスコット・アルフレッド投手コーチは、メジャー昇格の条件について、こう話した。

「彼が上で投げるために必要なものは、コマンド。コマンドを確かなものにすることだ」

 コマンド。それを一言で説明するのは簡単ではないが、ただ、制球力というよりも、ボールを操る能力と訳した方が的確かもしれない。コマンドだけではないが、井川はこの3年目について「課題ばかりが残った、残念なシーズンだった」と振り返りつつも、「肘の痛みとかはありましたけど、1年間、けがなくローテーションを守れたことと、チェンジアップが後半よくなってきた事は良かった。あとは、1〜2マイルですけど、ストレートが速くなったことですかね」と、収穫がなかったわけではない。また、マイナーでどっぷり過ごしたことで得たこともあったようだ。

「日本では過保護でしたね。こっちでは、7時間とか8時間のバス移動後に投げるとかありますし、(日本では避けていた)デーゲームでの登板も経験して、まあ、いやだとか言っていられないわけですけど、そういう部分ではメンタル的にも強くなったと思います」

 2010年は5年契約の4年目。「井川を飼い殺している」とささやかれることもあるヤンキースの扱いにも注目が集まるが、本人は「来年は、とにかく明らかな数字を残したい」と、不撓(ふとう)の意思で臨む。
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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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