「決定力不足」と無縁の米子北=高円宮杯 千葉U−18 1−2 米子北

平野貴也

司令塔から必殺仕事人への変ぼう

城市監督率いる米子北は少ないチャンスを高い決定力でものにしベスト8に進出した 【平野貴也】

 山本は大会通算7得点となり、得点王ランキングで独走状態に入った(2位は4得点)。根っからのストライカーかと思ったが、実際は違った。中学時代はポゼッション志向のチームで司令塔となるパサーだったという。「FWをやったのは高校から。中学の時も言われてはいたんですけど、ボールを持つとまずパスを考えてしまう癖がついていて、シュートは全然ダメでした。2年生の後半ぐらいからできてきた感じ。最初は中盤をやりたかったんですけど、城市先生にゴールを見ろ、シュートを打てと言われて、オフの動きで駆け引きを覚えたら楽しくなりました。もうFW以外はできません」とは本人の言葉だ。

 プレーが単にがむしゃらなのではなく、駆け引きを得意としているのがポイントだろう。手段は、目的のために選ぶ。実は、高校を決めたのもそんなやり方だった。全国大会の常連校に進学したいと考えていた山本は「地元の大阪では、どこが全国に出られるか分からない」とインターネットや全国高校選手権のパンフレットを使って情報を仕入れ、米子北の練習に参加して自身を売り込んだ。「岡山の作陽高校とかもあったんですけど、僕の実力じゃ(試合に出るのは)厳しい」と、冷静に判断を下すあたりに駆け引き上手な面がうかがえる。

今後の課題はサイド攻撃

 日本ではポゼッションサッカーが広く支持されており、特に育成年代でのカウンタースタイルは「選手が伸びない」など非難の対象となるケースも少なくない。しかし、ポゼッションサッカーの司令塔からカウンターサッカーの必殺仕事人に変ぼうした山本は「今のサッカーでも勝てるので、走るサッカーも楽しい。好きになりました」と笑う。
 日本におけるポゼッションサッカーの課題である決定力不足が、別のスタイルで解消されている姿は興味深い光景だ。

 一方で米子北は、県内最大のライバルである境高校との出場権争いが濃厚と見られている全国高校選手権予選に向けて一つの課題を持っている。2トップ任せばかりではなく、サイドハーフに高い位置を取らせて攻撃に参加させることだ。城市監督は「本来はサイドをもっと使いたいが、能力が低いのでレベルが高くなると、高い位置にいけなくなる。(ボールが相手の)サイドバックに行ったときにアプローチして、(パスを)出されたときにプルバックして戻って守備。これの繰り返しになるので、運動量が多くなってしまいますから。せっかくボールを奪ったのに(2トップを目掛けたパスをすぐにカットされて)相手に与えてしまうのは本来は良くないので課題。ただ、今はこういう(カウンター主体の)スタンスでやりながらチャンスを物にするという形。今は相手のレベルが高くなると、これしかできません」と、今後のビジョンを描いている。ボールを失わない、つまり現在のスタイルよりもポゼッションをできる形にしたいということだ。

 サッカーをやる側も見る側も、常に「ないものねだり」で進化の道を探っている。今の米子北に、見る者を魅了する鮮やかなパスワークはない。しかし、彼らには多くの他チームがのどから手が出るほど欲しがっている決定力がある。

<了>

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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