力強いストレートに見る松坂の完全復活

カルロス山崎

屈辱のブーイングから約3カ月

約3カ月ぶりのマウンドで好投し、スタンディング・オベーションに応える松坂 【写真は共同】

 地元ファンからのブーイングを浴びながら降板し、フェンウェイ・パークの一塁側ダグアウトに消えていった6月19日(現地時間)のブレーブス戦。その試合後の会見では、「このままでは、先発ローテにいる資格はない」と、自らを厳しく追い込んだ発言をしたのが、遠い昔のように感じることもあれば、ついこの間のことのようにも思える。とにかく、今季2度に渡って故障者リストに入った松坂大輔は、シーズン中に、長く苦しい時間を過ごした。出口がどこにあるのか分からないトンネルにも入った。だが、「自分を信じて」、復活を遂げるためのマウンドを目指した。屈辱のブーイングからおよそ3カ月、松坂大輔はスタンディンング・オベーションを受け、照れるようにマウンドを降りていった。

力強いストレートを軸にした投球

「今回、イニングの途中(での降板)というのは個人的には残念でしたけど、選手としては最高の形で、ファンもたたえてくれたので、本当に良かった」

 9月15日、フェンウェイ・パーク。相手は、プレーオフの地区シリーズで対戦する可能性が高いエンゼルス。松坂にとって過去の対戦成績が決していい相手ではなかったが、それよりも、松坂自身がどんなボールを、松坂らしい力のあるストレートを投げられるか、というところに注目が集まった先発マウンドだった。

 初回、松坂は先頭打者ショーン・フィギンスに対してストレートを続けた。93マイル(約150キロ)、93マイル、94マイル(約151キロ)……。結果的に、2ストライクと追い込んでから四球で出塁を許したが、5月、6月の松坂大輔とは違った。ジェイソン・バリテック捕手は、いつものように淡々と感想を述べた。

「何が良かったかというと、とても力強かったことだ。中でも、ストレートをどのようにして投げたいコースに投げ分けるか、それができた事が最も重要なポイントだった」

 2回以降も、ストレートを軸にしたピッチングは続いた。回を追うごとに、投球フォームが変わっていった6月の松坂大輔ではなかった。

「今日に限ってはストレートだと思いますね。多少コースが甘くても、ファウルになったり、空振りが取れたりしていましたから。今日はストレートが良かったから、ほかの球種がそんなに良くなくても、うまくゲームを組み立てる事ができたのだと思う」

 4回までエンゼルス打線を無安打に抑えた松坂だったが、両軍無得点で迎えた5回、先頭打者ケンドリー・モラレスに初安打を許すと、その後、1死二、三塁のピンチを迎えた。内野は、米国では通常通りの“定位置”で、1点はやってもいいという守備隊形。ここで松坂は気迫あふれるピッチングで攻めていった。

「状況的に、1点は仕方がない場面だったんですけど、相手ピッチャーも素晴らしいピッチングをしていたので、できれば1点もやりたくない、そう思って投げました」

 ジェフ・マシスを、全球ストレートで3球三振に切って取ると、続くショーン・フィギンスに対しても、全球ストレート。最後は低めに伸びていったボールを空振りさせ、「理想的な結果」をもたらした。

「ピッチャーは誰でもそうだと思いますけど、ストレートが良ければ、ストレートが軸になって、他のボールも生きてくると思うので、常にそういう状態になると楽ですね」

気持ちは次へ「100%に仕上げていきたい」

 6回0/3、3安打無失点。復帰戦でチームを勝利に導き、手応えをつかんだ松坂だったが、一夜明けた16日、気持ちはすでに、次の登板に向けて切り替わっていた。

「まだ、自分の中で100%の状態になっていないので、これから試合で投げていく中で、もう少し、隙間を埋めていくというか、100%に近い状態に仕上げていきたいですね」

 ところで、アスリートにとって、敵地でのブーイングは選手冥利(みょうり)に尽きるものというが、逆に、ホームでのブーイングほどつらいものはない。それは選手の家族にとっては、なおさらのことだろう。15日のエンゼルス戦、松坂の家族は自宅のテレビで見守ったという。松坂は、妻・倫世さんの反応について話してくれた。

「妻は、(自宅で)観ていて、(スタンディング・オベーションを受けたところは)うれしかったと言っていました。常にそうであれば、家族も安心することができますけど、こういう世界ですから……」

 松坂大輔の次の登板は、20日のオリオールズ戦と発表されている。今後、中4日のローテーションで回っていくとすれば、25日、ヤンキー・スタジアムのマウンドに立つことになるだろう。

<了>
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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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