劇的な本塁打が目立った“真夏の祭典”=第80回都市対抗野球総括

島尻譲

総入場者が17年ぶりに50万人を突破

13年ぶり2度目の優勝を遂げたHonda 【島尻譲】

 80回記念大会ということで、例年よりも4チーム増の36チームの出場で開催された大会はHonda(狭山市)の13年ぶり2度目の優勝で幕を閉じた。大会12日間で総入場者は53万8千人と、17年ぶりに50万人の大台を突破。これは今季限りで休部の決まっている日産自動車(横須賀市)が粘り強い戦いでベスト4進出を果たしたことを筆頭に、東京ドーム開催ゆえに多くの観客動員が見込める関東勢のチームが勝ち進んでいたことが大きい。
 そして、肝心な試合内容も1点差ゲームが11試合、サヨナラゲームが4試合、タイブレーク(延長10回を終えて、同点のケースでは1死満塁からの攻撃で勝負を決する)突入が4試合ということからも分かるように、締まったきん差の競り合いが多かった。

 また、大会本塁打は計45本。日本新薬(京都市)・堂前篤史が三菱重工長崎戦で放った同点3ラン、東芝(川崎市)・三澤慶幸の2試合連続本塁打、打撃賞を獲得した東京ガス(東京都)・松田孝仁の2打席連続本塁打、ヤマハ(浜松市)・佐藤二朗がHonda鈴鹿戦で記録したサヨナラ本塁打、日立製作所(日立市)・大久保寛之が七十七銀行戦の延長10回に打った決勝2ラン、トヨタ自動車・二葉祐貴が準決勝・日産自動車戦で放った値千金の決勝ソロ本塁打など劇的な一発が目立った。
 ワールドベースボールクラシックの連覇などで“つなぎの野球”が主流となる日本の野球界だが、
「都市対抗に出るまでにはスモールベースボールで通用するが、都市対抗で勝つには空中戦を制することができなければ勝てない」
 といったコメントを何チームもの監督が残した。現にHondaが6本塁打、トヨタ自動車は4本塁打と、効果的な一発で決勝まで駒を進めた感が強い。このことからも今後の社会人野球は一発を求められる傾向になるのかも知れないし、金属バット時代(第50回・1979年〜第72回・2001年)とは異なった形で長打を回避する投手力向上の必要性が重視されるのではないだろうか。

顕著だった東高西低

45本塁打が飛び出すなど一発が目立った今大会。ヤマハの佐藤はHonda鈴鹿戦でサヨナラ本塁打を放った 【島尻譲】

 そして、大会前から懸念されていたことではあるが、現在の社会人野球は完全に“東高西低”で、今大会ベスト8に残ったのは東京2、北関東1、南関東1、神奈川2、東海2と、この勢力図は顕著であった。これは厳しい経済状況が続く中で、企業チーム登録がピーク時の3分の1(4月現在で85チーム)に減少していることも大きく関係している。地区予選での厳しい競争の低下により都市対抗の“出場手形”がほぼ保証され、戦力が均衡している本選では奮わないというケースが目立った。特にここ数年、近畿勢の低迷は明らかで、阪和、京滋奈、兵庫に近畿(3地区の敗者復活)という枠の影響で補強選手もままならない。地区予選が甘くならないよう、レベルアップのために3地区を統合した近畿地区という枠に改編する時を迎えているように思える。

 12日間の熱戦を終えて、日本野球連盟・松田昌士会長は閉会式で
「都市対抗はこれまでの80回という歴史があり、さまざまな形で地域に貢献して来ました。今、厳しいと言われている日本経済の活性化のためにも、90回、100回大会を目指して、社会人野球を盛り上げて行きましょう」
 と、語った。
 その熱き思いがいつまでも続くように、都市対抗がいつまでも“真夏の祭典”であり続けることを強く願った大会だった。

<了>
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著者プロフィール

 1973年生まれ。東京都出身。立教高−関西学院大。高校、大学では野球部に所属した。卒業後、サラリーマン、野球評論家・金村義明氏のマネージャーを経て、スポーツライターに転身。また、「J SPORTS」の全日本大学野球選手権の解説を務め、著書に『ベースボールアゲイン』(長崎出版)がある。

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