バレー男子、3戦全勝で世界選手権へ 効果を生んだ新たな試み

田中夕子

「世界照準」に近づくために

北京五輪では清水、福澤(中央)ら当時大学生だったメンバーが代表に起用された。さらなる人材の発掘も、今後の重要な課題となる 【坂本清】

 評価すべき点はほかにもある。1戦目のカザフスタン戦で、試合を立て直して勝利へつなげた阿部裕太(東レ)のトスワーク。185センチと今大会で最も小さなウイングスパイカーであった米山裕太(東レ)の堅実な守備と高いブロックを利用した巧みな攻撃。イラン戦、韓国戦で強烈なサーブを放ち、存在感を示した越川優(パドヴァ)など、途中交代の選手が結果を出したことも「チーム力」を語るうえでは、明るい材料であるのは間違いない。

 しかし、裏を返せばこんな見方をすることもできる。
「北京五輪から、だいぶメンバーは新しくなった」
 植田辰哉監督はそう言うが、最終的にスタメンとしてコートに立った7人はリベロの田辺修(東レ)を除けば、やはり北京組の選手が並ぶ。
「たまたま結果として最後がそう(北京のメンバーに)なっただけで、誰が出ても勝てるチーム。少数精鋭で底上げはできている」
 指揮官は胸を張るが、石島、福澤、越川の守備が崩れたときに、同様の攻撃力も備えた交代要員や、世界の高さに太刀打ちできるミドルブロッカーも豊富とは言い難い。植田監督も「大学生を含め、積極的に選手を試用したい」と明言している通り、さらなる人材発掘は必須だろう。
 とはいえ、プレッシャーのなか内容よりも結果が求められる状況で、3戦全勝で世界選手権への出場を決めたことには大きな価値がある。すべての試合にスタメン出場した福澤も「出続けたことで成長できただけでなく、大きな自信になった」と手応えを示した。

 ともに世界選手権への出場を決めたイランのホセイン・マダニー監督は記者会見で、「世界選手権で日本と当たったら、今度は勝利できると思うか?」の問いに、こう答えた。
「日本で開催しないのだから、それは十分あり得るだろう」
 こんなことを言わせないためには、アジアではなく、世界で結果を出すしかない。
 世界選手権は数あるバレーボールの国際大会のなかでも、歴史が古く、24カ国と最も多くの国が出場する。真の「世界照準」を知る。これ以上の機会はない。

<了>

世界選手権アジア予選 結果

<最終順位>
1位.日本  (3勝0敗)
2位.イラン (2勝1敗)
3位.韓国  (1勝2敗)
4位.カザフスタン (0勝3敗)

<対戦結果>
■8月28日(金)
イラン 3−2 韓国
(19−25、25−22、18−25、25−17、15−12)

日本 3−1 カザフスタン
(25−20、17−25、25−21、25−16)

■8月29日(土)
韓国 3−2 カザフスタン
(23−25、18−25、25−16、25−19、15−5)

日本 3−1 イラン
(25−17、25−22、22−25、25−17)

■8月30日(日)
カザフスタン 1−3 イラン
(18−25、14−25、25−23、16−25)

日本 3−0 韓国
(25−23、25−16、25−22)

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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