サビオラとアイマール、8年の歳月を超えて=“双生児”と呼ばれる2人が再び共鳴するとき

ストライカーとしての復活に懸けるサビオラ

サビオラの後方で攻撃を支えるアイマール。リバープレート時代のコンビがベンフィカで復活した 【Getty Images】

 そして、サビオラがベンフィカと契約した理由の残りの50%は個人的な渇望によるもののようだ。
「僕は自分のサッカーキャリアを再びやり直したいと思っている。もう一度ストライカーとしての感覚を取り戻したい」と率直な心情を吐露したとき、わたしには「たった28試合の出場で5ゴールしか挙げられなかったレアル・マドリーでの2シーズンの記憶を消そうとしている」ことが分かった。
 現在のヨーロッパのサッカー界において、サビオラが輝くスター選手の1人だと思っている人間はほんの一握りだろう。レアル・マドリーの攻撃の担い手として、昨年バロンドール(世界最優秀選手賞)を受賞したクリスティアーノ・ロナウドが収まったことなど、サビオラにとっては何の慰めにもならない。
 また、今シーズンのサビオラの年俸が50万ユーロ(約6800万円)にも満たないことは非常に興味深い。彼はこのシーズンを、もう一度クラッキ(名手)としての自分を感じるためだけに、ささげることを考えているようである。

 現時点では、サビオラのベンフィカ移籍という判断が間違っていなかったことは十分に証明されていると言ってもよい。ピッチの上での歓喜を取り戻し、すべての試合において、試合を決定付ける動きを見せているからだ。ゴールを決め、味方のゴールにつながるアシストも決めている。さらに小兵(168センチ)のサビオラは、監督のジョルジュ・ジェズスから動けるFWとしての役割も期待される。相手DFを引きつけて彼とコンビを組む長身のゴールゲッターのオスカル・カルドーソ(192センチ)や、バルセロナから期限付き移籍で獲得したケイリソン(181センチ)のスペースを空ける素早い動きも見せている。
 プレシーズンマッチ初戦となったスイス合宿でのシオン戦では、移籍後初ゴール。続く国内の「グアディアナトーナメント」では、初戦のアスレティック・ビルバオ戦で2ゴールを決めてMVPにも輝いた。

眠っていた才能が喚起したアイマール

 サビオラだけがベンフィカを立ち直らせているわけではない。アイマールも今シーズン、中盤がダイヤモンドの4−4−2で、本来の「10番」(トップ下)のポジションを与えられ、持って生まれた天賦の才をいかんなく発揮。「このポジションは僕のキャリアにおいてずっとプレーしてきた場所だからやりやすいよ」と本人も語っている。
 昨シーズンはセカンドストライカーの役割を求められ、トップの位置に入ったり、ウイングの位置に入ったり、不慣れなポジションで本領発揮とは程遠いプレーに終始してしまった。しかし、このプレシーズンでは中盤の低い位置まで下がってボールを奪い、ゲームを作り、試合をコントロールするプレーやペナルティーエリア内でPKを獲得する動きなどを随所に見せて、“試合から消えている”時間帯は皆無である。

 特にアイマールのラストパスからサビオラがフィニッシュまで持ち込むプレーは「“El Majio(エルマジオ=マジシャン)”(アイマール)がシルクハットから“El Conejo(エルコネホ=うさぎ)”(サビオラのニックネーム)を取り出して見せた」とポルトガルメディアからも絶賛されている。
 監督のジョルジュ・ジェズスも2人の出来には満足しているようだ。「サビオラはより高いクオリティーをチームに持ち込んでくれたし、アイマールは本来の(トップ下の)位置で眠っていた才能が喚起されたようだ」と。

そして、2人はピッチ上で“共鳴”する

 ベンフィカのサッカーはサビオラの“到来”とアイマールの“好転”によって確実に変わりつつある。そのサッカーの質を高めるのに一役買っている選手がもう1人いる。現アルゼンチン代表監督であるディエゴ・マラドーナから何回も絶賛されている左ウイングのディ・マリアだ。
 ディ・マリア自身も「アイマールとサビオラ、そしてカルドーソとプレーするのはとてもやりやすい。僕たちはお互いのプレーの特徴をずっと以前から熟知しているし、同じ言葉(スペイン語)でコミュニケートできるのでサッカーに対する姿勢や考えもすぐに理解できるんだ」と同郷アルゼンチンの先輩とのコンビネーションについて十分な手応えをつかんでいるようだ。

 昨シーズンまで、ルチョ・ゴンザレス(マルセイユへ移籍)とリサンドロ・ロペス(リヨンへ移籍)のアルゼンチン代表コンビを擁してリーガ4連覇を達成したポルトのお株を奪うかのように、ベンフィカの前線に構えるアルゼンチントリオの“化学反応”はすでに「ポルトガルでの新たなタンゴのリズム」として認知されつつある。
 ポルトの監督であるジェズアルド・フェレイラは「これだけ才能あふれる“演者”をそろえてきて、プレシーズンマッチで確実に結果を残しているチームを賞賛しない人間はポルトガルにいないだろう」と、好敵手のチームの仕上がりの良さを脅威に感じているようだ。

 事実、例年に比べて精力的に実戦形式のテストを行ってきたベンフィカは、プレシーズンマッチ10試合で8勝1分け1敗という抜群の仕上がりを見せている。その中には、昨季のUEFAカップ(現ヨーロッパリーグ)王者であるシャフタル・ドネツクや、敵地アムステルダムでの名門アヤックス戦、さらにACミランをほふった試合も含まれる。

 サビオラとアイマールは8年ぶりとは思えない抜群のコンビネーションでプレシーズンマッチという“ゲネプロ(リハーサル)”では期待通りの「答え」をきっちり出して見せた。ベンフィカが5年ぶりにリーガのタイトルを奪還できるのか、それともここ数年繰り返してきたようにすべてを失ってしまうのか。その趨勢(すうせい)は、サビオラとアイマールがピッチ上で奏でるハーモニーが、シーズン中の“本番の舞台”でも“共鳴”できるかどうかに懸かっている。

<了>

■翻訳:鰐部哲也 / Tetsuya Wanibe
1972年10月30日生まれ、三重県出身。2004年から約4年間、ポルトガルのリスボンに在住し、ポルトガルサッカーを日本に発信。昨年8月に日本帰国後は、故郷の四日市市でブラジル人相手のポルトガル語の通訳、翻訳、生活相談員の仕事に従事している。

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著者プロフィール

1978年3月1日、リスボン生まれ。新リスボン大学在学中より、ポルトガルの一般紙『ジョルナル・デ・ノティシア』紙に2年勤務。その後、ポルトガル最大のスポーツ紙『ア・ボーラ』(ちなみに、ウェブサイトはポルトガル国内で最もアクセス数が多い)の記者に転身。2001年より国内最大の人気クラブであるベンフィカの番記者として活躍している。ポルトガル語、英語、スペイン語、フランス語、イタリア語と5カ国語に堪能で、語学力をを生かしてペレ、ディ・ステファノ、プラティニらのサッカー界の重鎮の独占インタビューにも成功している

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