田沢、大舞台でのメジャーデビュー=敗戦スタートに先輩がエール

カルロス山崎

最初に迎えた打者が松井秀喜

ヤンキース戦の14回に登板、メジャーデビューを果たしたレッドソックス・田沢。1回2/3を投げサヨナラ2ランを含む4安打2失点で負け投手になった=ヤンキースタジアム 【共同】

 メジャーに昇格した日に、メジャー初登板。ブルペンにいた最後の投手として、それも、0対0の延長14回。しかも、相手はヤンキースで、最初に迎えた打者は松井秀喜だった。

「(松井さんが)いいバッターというのは、自分が小さい時から分かっているので、胸を借りるつもりで投げたんですけど、ホントにすごい当たりを打たれて改めてすごいバッターだなと実感しました」

 田沢純一は、投げる前から大胆にいく覚悟を決めていたようだ。

「四球で逃げるのではなく、攻めたかった」

 そして、松井秀喜に対する第1球、すなわち、一生に一度しかない“メジャー第1球”は92マイル(約148キロ)のストレート。やや力が入ったのか、ジェイソン・バリテックのミットには直接入らず、ワンバウンドの投球となった。2球目、キャッチャーの構えは外角低めだったが、92マイルのストレートは内角高めへ。松井はこれをファウルしカウントは1−1に。3球目は93マイル(約150キロ)のストレート。見逃せばボールかという内角低めの球を、松井はセンターへ会心の打球を放ったが、ジャコビー・エルスブリー中堅手の守備範囲で、結果は凡退。田沢は最初のアウトを松井秀喜から奪った。
 だが、続く延長15回、田沢は9人目の打者、アレックス・ロドリゲスに痛恨の一発を浴び、19時9分(現地時間)から続いていた投手戦はあっけなく終わった。

「(スライダーが)ちょっと高かった。大胆に行った結果、しょうがないといえばしょうがないのかもしれないですけど、(ブルペンでは)自分に回ってきたら、いい形でつなげたらいいと思っていたので、それができなかった。反省しています」

 1回2/3を投げ、4安打2失点。だが、それまでに投げた投手たちの“気”というか、好投の流れもあっただろうが、田沢は、数字では計り知る事のできない攻撃的な投球を続けただけでなく、絶妙な間の取り方で走者を塁にくぎ付けにするなど、「緊張はあった。いつもよりかは強かったと思います」と言っていたのがウソのような落ち着いたマウンドさばきを見せていた。

負けから始まったキャリア

 先発ジョシュ・ベケットが、力強いピッチングを続けている間、レッドソックスのブルペンでは3人の日本人投手が戦況を見つめていたのだが、この日の2番手、つまり、最初にブルペンを出て行った岡島秀樹は、田沢に次のようなエールを送った。

「今日は田沢君が頑張ったことを褒めてあげたい。結果はああいう形でしたが、私も、ヤンキースタジアムでの投球は緊張もしますし、それをメジャー初昇格で投げたのは見事だったと思います、チームにとって大事な戦力として期待をしていますし、何かできることがあればアドバイスをしたいと思います」

 田沢の前、7番手としてブルペンを出て行った斎藤隆は、もしかしたら、田沢の投球を、どうしようもないくらい緊張して見つめていたのかもしれない。

「すごく、難しい場面。結果は敗戦投手となりましたが、彼のスタートであることは間違いない」と、田沢のメジャーリーガーとしてのキャリアが負けから始まったことは決して悪くないと言いたかったようだ。そして、こう続けた。

「彼が選んだ道というのは、そもそもが、そんな平たんな道のりではない。彼も心してアメリカに渡っているはずなので、こういう風なスタートになるというのは、きっとそれを乗り越えるだけの力が彼にはあると、僕は信じています」

 日付が変わった8月8日(現地時間)、0時42分。A−RODが放った打球は、田沢がつい先ほどまでいたブルペンに飛び込んだ。マウンド上で肩を落とす23歳。少年のように、はしゃいでダイヤモンドを回るA−RODと、狂喜の一塁側ダグアウト。そして、ヤンキースタジアムには、フランク・シナトラの「ニューヨーク・ニューヨーク」がいつまでも流れていた。

 プロ野球ではなく、メジャーリーグの道を選んだ23歳。彼が今後、この1敗から得ていくものは多いに違いない。

<了>
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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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