“カウントダウン”の8月、井川にメジャー昇格の可能性

カルロス山崎

2Aでプレーを続ける田中良平

オリオールズ傘下の2Aでプレーする元ロッテの田中 【カルロス山崎】

 7月31日(現地時間)のトレード期限が過ぎ、8月に入った。マイナーリーグは9月上旬にシーズンが終了するため、先発投手の登板は多くてあと7回。マイナーリーガーにとって8月は、何というか、カウントダウンするかのような月になる。ベンチ入り枠が40人に拡大する9月にメジャー昇格の可能性がある選手、あるいは今後に向けた期待感でいっぱいの若手有望株もいれば、来年はどこでプレーすることができるか、不安に駆られる選手も少なくない。

 オリオールズ傘下の2Aボウィー・ベイソックスでプレーする田中良平投手(26)は4日、ニューハンプシャー戦に先発し7回6安打3失点で2勝目をマーク。チーム事情により、ブルペンから先発に回って間もないが、「投げられればどこでいい。先発だからっていう気負いもないです」と、前向きで、ブラッド・コミンスク監督も「89球で7イニング。ファーストストライクは取れるし、テンポもいい。先発に向いているんじゃないかな」と、田中の好投に目を細めた。

 田中は2000年、ドラフト1位で千葉ロッテに入団したが、08年オフに戦力外通告を受け、渡米。通訳がいないのは当たり前で、本拠地ではモーテルのようなところに住んでいるという。もちろん、英語もままならないが、表情は明るい。

「僕の場合、(チームが)育成を目当てにしているわけではないので、結果が第一。その中でいろんな技術を向上していきたい。今、ものすごいやりがいを感じていますよ。チーム一丸となって、野球をやっているというのは、日本ではできなかった事なので、楽しい」

 シーズンも残り1カ月となった。ここまで先発で2勝しているが、来季のことは白紙といっていい。

「先発で、あと数えるくらいしかないですけど、ひとつでも多く勝って、結果を残して、スピードも1マイルでも上げられるように、思いっきりやりたい」

先発5番手に井川の名前も浮上

井川はマイナーで結果を残し、メジャー昇格の可能性が出てきた 【カルロス山崎】

 有望株なのかどうか、あるいは契約内容によって立場に差が出る世界ではあるが、シーズン終了という、残された時間は実に公平だ。ヤンキース傘下3Aスクラントンで、開幕から唯一、先発ローテーションを守ってきている井川慶(30)に必要なのは、内容と結果の両方。どちらも平均的なものではメジャー昇格のチャンスは少ないと、自分自身に言い聞かせている。

「もし、あと7回(先発が)あったら、5回は勝ちたい。防御率も、せめて昨年(3.45)くらいまでには下げておかないと」
 
 今季、3Aスクラントンでの成績は、先発20試合で9勝(リーグ3位タイ)4敗、防御率3.91(同18位)という井川慶。115回(同13位)を投げ、奪った三振は88個(同15位)。中でも評価できるのは与えた四球が29個という少なさだ。だが、被本塁打17(同2位タイ)という、いただけない数字もある。とは言っても、最初の10本は開幕からの1カ月(5度の登板)で集中して浴びたもので、一発病はその後、解消されつつあると言っていいだろう。

 その井川に、ここに来てメジャー昇格の可能性が出てきた。キーになるのは、数週間前までのチームメイト、セルヒオ・ミトレ投手(28)だ。

 ミトレは 、カブス、マーリンズでのメジャー経験を持つ筋肉隆々の大型右腕。南カリフォルニアの出身だが、家族はメキシコ系で、確か日本人の血も1/4引いていると本人から聞いた事がある。そのミトレは7月21日のオリオールズ戦でメジャー昇格を果たし、6回途中4失点で白星を挙げたが、その後は5回9安打4失点、3回7安打5失点と下降。早くもがけっぷちに立たされている状態で、今後のピッチング次第では、5番手の入れ替えが行われる可能性がある。

 7月中旬、ヤンキースは先発5番手として、マイナーから一人昇格させる必要に迫られる事態に陥った。その時、井川も候補の一人として考えられたが、当時、スクラントン先発投手陣の優先順位は、1.ミトレ、2.ノバ、3.井川。例えばそれは、雨天順延による影響を受けず、中4日で優先的に登板機会が与えられるかどうかで知る事ができるわけで、井川も当時、その順位を理解していた。だが、その優先順位は今、ハッキリしていない。

井川「舞台に上がる事が一番」

 スクラントンのPNCフィールドで取材している地元記者や球団関係者の多くは、「次はイガワの番だ」と口をそろえている。「チーム(スクラントン)は自信を持って上に送り出せるはずだ」など好意的に見ている者もいるが、ヤンキースは3Aの先発ローテに、ちょっとしたテコ入れを行ったばかり。例えば、本来なら現地時間6日は井川の登板日だったが、そこにあえてロムロ・サンチェス(4勝2敗、防御率4.35)を差し込んできた。また、5日には、先日アストロズから戦力外通告を受けたばかりのラス・オルティス投手とマイナー契約を結んでおり、“井川が次にコールアップされる第一候補”とは決して言えない。ただ、7日に予定されている井川の登板が回避されるようなことがあれば、それはお呼びがかかる前兆と、とらえる事もできるかもしれないが……。

 ブルペン陣も含め、4月から相当数のチームメイトがコールアップされ 、中には何往復もしている選手もいるスクラントンだが、井川は、一度もチャンスが回ってこない事にどう思っているのだろうか。疎外感のようなものは、少しはあるのだろうか。

「そういうことは、あんまり考えていないですね。(昇格できるかどうかは)自分でコントロールできることではないですし、目の前の試合で勝てるよう、とにかく、自分の役割に集中しています」

 その井川に、「ここでずっと先発を続けていくことと、メジャーで中継ぎをやること、どっちがいいか」と尋ねると、即、答えが返ってきた。

「もちろん、上(メジャー)ですね。どういう風に起用されるかということではなく、(メジャーリーグという)舞台に上がる事が一番」

 5日、ブルージェイズ戦に先発したミトレは5回1/3を投げ8安打3失点という投球内容。彼に次のチャンスはあるのか。それとも、3Aスクラントンの誰か(井川、ノバ、サンチェス、タワーズ、オルティスら)にチャンスが回ってくるのだろうか。ただ、ヤンキースが井川に白羽の矢を立てるとしたら、井川は今後、契約上、有利な条件を手にする事ができる。井川は07年と08年に、マイナー行きというオプションを行使され、現在は40人枠にも入っていない。メジャーリーグでは、マイナー・オプションの行使は3年(厳密にいうと、3シーズン。シーズン当たりの行使回数は無制限)が限度になっているため、ヤンキースは井川を昇格させると、次のオプション行使は最後になる。果たしてヤンキースはどのカードを切るのか、そこには選手の状態だけでは判断できない事情がある。

※成績は現地時間8月5日現在のもの

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント