3Aに昇格した田澤純一、育成プログラム進行中

カルロス山崎

2Aと3Aの違いを実感

3Aに昇格後、2度目の先発となった田澤。負け投手となったが、手応えを実感した 【カルロス山崎】

 試合が終わって、これからバスで5時間の移動という時、スクラントンのビジター用クラブハウスでアイシングを終えた田澤純一は、おもむろに2Aと3Aの違いについて話し始めた。

「(2Aの)ポートランドの時は、試合が終わってすぐに移動することが多かったんですけど、こっち(3A)はちょっとゆっくりできるんですよ。それに、メシもこっちの方が断然いいですね」

 まだ着替え終えていない田澤が口に運んでいたのは、使い捨ての白い皿にのせたフレンチフライと、バーベキューポークのサンドイッチだけ。一体、2Aではどのような食事が出ていたのだろうか……。1Aのある試合では、クラブハウスにバナナが大量に置いてあり、“以上!”というのがあったと聞いたことがある。メジャーリーグでは試合後にステーキをほお張る選手をよく見かけるが、これがアメリカ野球の現実なのだろう、などと考えていたら、次の話が始まった。

「それと、バスも違いますね。3Aは2台なので、隣の席も使えるんですよ」

 なるほど、そこまではっきり区別をつけるのか。2Aの移動用バスは1台、ということであった。

 8月2日(現地時間)、ペンシルバニア州北東部にあるスクラントン・ウィルクスバレー・ヤンキース(ヤンキース傘下の3A)の本拠地で、田澤にとって3A昇格後2度目の先発登板があった。相手は強力打線を誇るヤンキース打線。3、4、5番は、超の付く有望株のオースティン・ジャクソン外野手(打率3割5厘、42打点、19盗塁)、シェリー・ダンカン外野手(25本塁打、75打点)、ホアン・ミランダ一塁手(15本塁打、62打点)が並ぶ。その前後を、メジャー経験のあるラミロ・ペーニャ遊撃手、ジョン・ロドリゲス外野手(この日はDH)、フランシスコ・セルベリ捕手もラインナップに名を連ねており、インターナショナルリーグの中でも群を抜いた戦力がそろっている。(成績は2日の試合開始前の時点)

 つまり、この試合は、田澤が半年間に渡って行ってきた育成プログラムのここまでの成果、成長、課題、それに、メジャーリーグレベルにおける可能性などについても垣間見る事ができるかもしれない、そんな期待感があった。

より実践的な環境の中で

 前回のバファロー戦と同様、「まだ緊張しているというか、まだこっち(3Aポータケット・レッドソックス)のペースになじめていない。(立ち上がりは)ボールが高かったり、変化球が決まらなかった。でも、前回に比べたら、少しは落ち着けたのかなと思います」と振り返った通り、序盤はボールが先行した。が、その荒れた感じが打者に的を絞らせなかったのかもしれない。結局、初回は3人の打者に対して、いずれも3ストライク目がいいところに決まって、3者凡退(17球)で切り抜けた。

「きのう(1日のダブルヘッダーは)、ネット裏で(自軍投手陣の投球)チャートをつけていたんですけど、(ヤンキースは)集中打で一気に点を取ってきていましたし、いい打線という印象でした」

 2回裏、田澤は5番ミランダに痛烈なセンター前ヒットを許したが、そのあと5−4−3の併殺で無失点。続く3回にはロドリゲスに対してストレートが高く入り、力でライトオーバーの二塁打を浴びたが、要所要所はきっちり締めて、5回まで3安打無四球で、無失点に抑えた。

「コースを意識し過ぎて、苦しい感じもありましたけど、その割りには打ち取れたので良かった」

 そんな田澤を、味方の守備がもり立てる場面もあった。2回の併殺もそうだが、5回、セルベリの放った三遊間のゴロを、三塁手のチャベスが飛びついて捕球すると、上体を起こす事なくファーストへ送球し、間一髪アウトとなった。

「守備に助けられました。その点は投げやすいですね」

 育成を重視する2Aでは、まだプレーが雑で、エラーは頻繁に起こるもの。投手は、味方のエラーで崩れるようでは務まらないと言っていい。だが、社会人野球の第一線でプレーしていた田澤にしてみれば、バックの堅い守りは久しぶりだったに違いない。

 6回、田澤は四球と二塁打で一死二、三塁のピンチを作り、3番ジャクソンを迎えたところで降板となった。球数が予定の80〜85を超え、90球に達したからだ。続く2番手投手が打たれ、この回3失点。田澤には失点2と自責点2、それに、およそ1時間後に2つ目の黒星が付いたが、収穫は多かったようだ。田澤はこう話した。

「2Aは初球ストレート(の徹底)とか、育成に関しての決まり事が多いのですが、こっちはそういうのは一切ないので、実践的な感じになっていると思います」

 とは言っても、彼の育成プログラムは現在進行中だ。

「2Aでやってきたことをそのまま継続しないといけないこともあります。やらなきゃいけないこと、変えていかないといけない事、半々かな」

次戦はフェンウェイ・パークでの登板

 田澤は新日本石油時代、「球種のクセが出ないようにするため」という理由もあって、走者なしの場面でもセットポジションで投げていたが、レッドソックスの育成プログラムには“ワインドアップでの投球”も組み込まれ、それを4月から続けている。田澤は「徐々に良くなっているとは思うんですけど、たまにバランスが悪いと感じる事もあります」と話していたが、それ以外にも、緩いカーブ、ツーシームなど、与えられた課題は少なくない。

 それにしても、田澤の3A昇格は突然だった。だが、本人はこの機会を心待ちにしていたようだ。

「他のチームのオールスターに選ばれたような選手が、上がったりしていたので、自分も、という気持ちはありましたけど、実際に上がれてよかった」

 田澤はメジャー40人枠に入っているため、メジャーリーグのベンチ入り枠が25人から40人に拡大する“9月1日のコールアップ”でメジャー昇格を果たすことが可能だ。今回の昇格は、それを見据えたものもあるだろうし、それに、来シーズン、3Aで開幕を迎えさせる事も前提としてあるだろう。

 ところで、監督室にあるラップトップで、その日のレポートを忙しそうにタイプしていたポータケット・レッドソックスのリッチ・ソーブール投手コーチが、手を休めて教えてくれた。

「タズ(田澤)の次の登板は、土曜。フェンウェイ・パークだ」

 8月8日、フェンウェイ・パークで“Future at Fenway”と呼ばれているマイナーリーグのダブルヘッダー(公式戦)が行われる。これは2006年から始まった年に一度の試合で、スタンドも満員になるという。今年は2Aポートランドが正午から、3Aポータケットが午後4時から試合を行うのだが、この日に投げる事を聞いた23歳は、「ホントですか!?」と笑みを浮かべると、気持ちを引き締めるようにこう結んだ。
「フェンウェイ・パークなので、楽しめたらいい。でも、意識しすぎないように頑張りたい」

<了>
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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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