究極の“2番・セカンド”ペドロイア 「大切なのは体ではなくハートの大きさ」

カルロス山崎

小柄ながら豪快なスイング

豪快なフルスイングから“ロケット”と呼ばれる強烈な打球を放つペドロイア 【Getty Images】

「33.5/30.5oz
1/29/2009」

 そのバットのグリップに刻まれている数字が意味するものは、長さ33.5インチ、重さ30.5オンス、そして、そのバットの製造日。レッドソックスのロッカールームで見かけたバットは2本、いずれも黒で、素材はアッシュ。製造はことしで創立125周年というルイビル社。グリップ部分には、松ヤニが広範囲に渡って白く付着し、そのうちの1本は芯(しん)の部分の塗料がはがれていて、本来の木の色がわずかだが顔を出していた。持ち主はレッドソックスのダスティン・ペドロイア。これらのバットには、何とも言い難い独特の雰囲気があったが、主が長く使っている、試合用の大切なバットであるということだけはひしひしと伝わってきた。

 レッドソックスのメディアガイドによると、ペドロイアの身長は5フィート9インチ、すなわち約175センチということだが、実際は170センチに満たないのではないだろうか。そんな彼が使っているバットは、日本式に換算すると、長さ約85センチ、重さは約865グラム。長さはともかく、とても軽い。しかも、ペドロイアはこのバットのグリップを1〜2センチほど余して持つ。メジャーリーグでは珍しい、バットを短く持つタイプだが、彼のバッティングスタイルは、バットの軽さを利用した“豪快なフルスイング”で、決してコツコツ当てにいくようなバッティングではない。それは、彼の打球が「ロケット」と呼ばれていることからもうかがえる。そのロケットの多くは、グリーンモンスターに着弾する二塁打だろう。2008年は、打撃タイトルこそないが『二塁打王』(54本)になった。

 最近のロケットは、09年7月10日(現地時間)、ボストンでのロイヤルズ戦。0対0で迎えた8回裏、ペドロイアは2死からグリーンモンスターの左中間上段に直撃する、先制かつ決勝の適時二塁打を放った。

「(先発投手の)レスターが素晴らしいピッチング(8回4安打無失点)をしていたし、あの回は何としても1点が欲しかった。ただ、自分の(打席での)アプローチはどんな場面だろうが一緒で、ボールを強くたたくこと。それがいい結果につながったのでうれしい」

MVPとゴールドグラブを受賞

 08年、二塁手として史上9人目のMVPに輝き、アメリカンリーグのゴールドグラブ賞も受賞したペドロイア。彼の守備はとても俊敏で、攻撃的で、そして球際に強い印象がある。だが、その守備も「練習を繰り返してきた成果であり、結果。もっとうまくなりたい」と言う。
 ペドロイアの、全体練習前の守備練習はすっかり日常化しており、“特守”ととらえる人は皆無と言っていいだろう。正面のゴロ、強いゴロ、緩いゴロ、併殺などの基本的なプレーを、ひとつひとつ確かめるようにこなすのだが、その姿を見ていると、「メジャーリーガーはあまり練習をしない」という固定観念がどこから来たものなのか、と思ってしまう。早出練習を繰り返す選手が少ない、というわけではないが、その姿勢はどこから来ているものなのか。それは、ペドロイアの次の言葉からうかがい知ることができるかもしれない。

「誰にでも、不安なこと、心配なことはあるし、自分の持っているもの(技術等)に対して否定的になることだってあると思う。僕の場合、体は小さいし、足が特に速いわけでもないし、肩が強いわけでもない。誰にとっても、うまくなるためには一生懸命練習することしかない、僕はそう信じている」

 “体の小さい二塁手”で、“打順は2番”となると、日本でもアマチュア野球などでよく見られるが、今や、野球ゲームソフト『MLB 09 THE SHOW』のカバーを飾っているペドロイアはそういった選手たちの頂点に立つ、究極の“2番・セカンド”かもしれない。

「体のサイズについては、あまり考えないようにしてきた。考えたって、大きくならなかったからね。子どもたちに伝えたいのは、しっかりと、それも正しい練習をしなさいってことかな」

そして、こう続けた。

「フィールド上で大切なことは、体の大きさじゃなくて、ハートの大きさ」

夫人を最優先し球宴を辞退

 09年オールスターゲーム。ペドロイアは2年連続、ファン投票で選出されたが、出場を辞退した。レッドソックス広報を通して発表された声明文には、ファン、周囲への感謝と、理解を求める思いがつづられていたが、理由は、8月に出産を控えたケリー夫人の体調を気遣ってのものだった。オールスター期間中はボストンに残り、夫人のそばにいることを最優先したのだが、実はオールスターメンバーが発表になった翌6日(アスレチックス戦)、いつものように先発メンバーに名を連ねていたペドロイアが試合直前になって急きょ欠場となり、代わりにフリオ・ルーゴが出場したことがあった。その日、夫人が緊急入院したため、フランコーナ監督らに促されて、球場を後にしていたのだ。翌日以降、ペドロイアは先発復帰したが、試合後は誰よりも早くシャワーを浴び、メディアの取材(事情を理解していた地元記者らは、質問などはかなり手短かにしていた)を終えると、急いで球場を後にしていたが、そこに彼のプロらしさを感じたメディアも多かったのではないだろうか。
 ケリー夫人は既に退院しているということだが、とにかく、彼女が無事に出産し、元気な男の子が生まれる事を祈るばかりだ。

<了>

ダスティン・ペドロイア
1983年8月17日、カリフォルニア州生まれ。カリフォルニアのウッドランド高校時代から、名門アリゾナ州立大学(レジー・ジャクソン、バリー・ボンズ、ポール・ロデューカ、イアン・キンスラーらを輩出)へ進学すると、3年間で打率3割8分4厘、71二塁打、14本塁打をマーク。また、03年にはナショナル・ディフェンシブ・プレイヤー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、守備でも高い評価を受け、04年のドラフト2巡目(全体65番目)でレッドソックス入り。マイナーリーグでの育成プログラムを経て、06年シーズン途中にメジャー初昇格。07年、レギュラーに定着し、アメリカンリーグ新人王。08年、打率3割2分6厘、17本塁打、83打点、118得点、20盗塁の好成績を残し、アメリカンリーグMVPに。同年オフ、レッドソックスと14年までの6年契約を結ぶ。
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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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