減量でキレの戻った井川 昇格には他力本願な要素も

カルロス山崎

マイナー生活で得られる意味とは

ピッチングフォームに力強さが戻った井川 【カルロス山崎】

 “レッドソックスの弱点”と言われて久しいのがショートのポジション。しかし、今シーズンはニック・グリーンという救世主が現れたようだ。
 グリーンは今季、レッドソックスとマイナー契約を結び、控えのユーティリティープレーヤーとして期待されていたが、キャンプ中に結果を残したことで25人枠に入った。年俸は55万ドル(約5300万円)。開幕当初は控えだったが、手首痛で離脱したジェッド・ロウリー、そしてけがから復帰したフリオ・ルーゴからレギュラーの座を奪うと、21日(現地時間)のブレーブス戦では、ライトポール際へサヨナラ本塁打を放ち、その座を確かなものにした。

 そのグリーン、昨シーズンはどこで何をしていたのかというと、ヤンキース傘下3A(スクラントン・ウィルクスバリ・ヤンキース)で丸々1シーズンを過ごしていた。主にショートとして112試合に出場し、打率2割3分3厘、12本塁打、50打点、26四球、102三振、19失策。決して、いい数字を残したわけではないが、左キラーとしては目立った活躍をした。対右投手の打率1割7分7厘(266打数47安打)に対して、対左投手は3割5分2厘(125打数44安打)、6本塁打。チームメートだった井川は「三振の多いバッターでしたけど、守備はよかった。結構、助けられましたね」と、全体的に悪い印象はない。

 そんなグリーンを見ていると(ルックスとしてはミュージシャンの黒沢健一にそっくり)、マイナーリーグでプレーすることは無駄なことではない、と感じずにはいられない。グリーンは、スクラントンで過ごした2008年をこう振り返った。

「1シーズン、けがもなく元気に過ごせたこと、それに毎日、大勢のファン(6千〜1万人)の前でプレーできたことはとても大きな意味があったと思う。その経験は、間違いなく今の自分に生かされていると思う」

 今シーズンのグリーンの活躍ぶりは、多くのマイナーリーガーにとって励みになっているはず。だが、自分自身のステータスがどうなるのか、それは本人次第と言いたいところだが、実際には他力本願的な要素も強い。内外野どこでも守れるユーティリティープレーヤーが欲しいのか、左の中継ぎが欲しいのか、控えの捕手が欲しいのか、買い手の動きは流動的だ。03年、ドラフト1巡目でヤンキースに入団したものの、これまでに一度もメジャー昇格を果たしたことのないエリック・ダンカン内野手はこう話す。

「この世界にいる以上、所属するチームについては自分ではコントロールすることができない。自分にできることといえば、与えられた仕事をすることと、そのための準備をしっかりやっておくこと。シェリー(・ダンカン=6月23日現在、21本塁打、64打点)やケイ(井川慶)のように、上でやれる力はあっても、そういう機会に恵まれないことだってある。僕にとってメジャーリーグへ行くことは長年の夢ではあるけれど、今は出場機会があることに感謝しながらプレーしている」

投球フォームに力強さが戻った井川

 井川の場合、年俸400万ドル(約3億8000万円)という契約が11年まで残っていること、というよりヤンキースがその額を負担して放出するという決断を下さないことがネックになっているが、メジャー昇格、あるいは他球団移籍の可能性が全くないわけではない。アメリカンリーグ中地区某球団のベテランスカウトは、井川について次のように評価している。

「(去年と比べると)かなりシェイプしたようだね。今シーズン、どの球種も制球力がアップしているのはそのせいだろう。本人はどれくらい減量したって言っていた? ……10〜15ポンド(4.5〜6.8キロ)か、それはいいことだ」

 その井川、体のキレが良くなったからなのか、フィニッシュ時の投球フォームにも、渡米後はあまり見られなかった、かつての力強さが戻ってきた。減量といっても、具体的には腰回りをスッキリさせた井川だが、今振り返ると、渡米以来、食事にはストレスを感じていたという。マイナーでは食事の選択肢は少なく、試合後に可能な外食というと、ファーストフードのドライブスルーか、ガソリンスタンドのサンドイッチくらいだったりすることもしばしば。つまり、クラブハウスで出されるピザ、フレンチフライなどの揚げ物で空腹を満たすことが多くなり、当初は「食べられる」ということで気にしていなかったものの、気がつけばそれは体に変化をもたらしていたのだ。

「だから夜遅くには食べないか、食べるとしても炭水化物は控えるようにして、あとデザートは食べなくてもいいので、やめました」

 トレーニング方法などはともかく、食事は米国流に染まらない方がいい、という一つの答えを導き出せたのは大きいことだと思う。

 ところで、井川が登板した6月16日のトレド戦は、平林缶さんが三塁塁審を務めた。平林さんは自身のブログで「球審ではなかったのですが、(井川投手は)とても状態が良いであろうということがよくわかりました」と感想を述べ、「ヤンキースというチームにいることが問題で、他チームであれば間違いなくメジャーで投げているでしょう」と、多くのマイナーリーガーを見てきた審判の視点で論じていたのが印象的だった。スクラントンで平林さんと話す機会があったが、「メジャーまでもう一歩のところまで来ましたね」と声をかけると、「いや、まだまだですよ」。選手はもちろん、審判にとっても、3Aというポジションにいるということは、メジャーへの距離が近く、期待が大きい分、常に気持ちを引き締めていなくてはならないのだろう。

<了>
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著者プロフィール

大阪府高槻市出身。これまでにNACK5、FM802、ZIP-FM、J-WAVE、α-station、文化放送、MBSラジオなどで番組制作を担当。現在は米東海岸を拠点に、スポーツ・ラジオ・リポーター、ライターとして、レッドソックス、ヤンキースをはじめとするMLBや、NFL、NHLなどの取材活動を行っている

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