不遇の海外移籍を経て、復活した大黒将志=孤高のストライカーが見せるゴールへの執着心

海江田哲朗

大黒はストライカー育成の最高の教材

大黒(中央)も出場した2006年W杯で日本代表はグループリーグで敗退した 【Bongarts/Getty Images】

 ルーキーながらメキメキ頭角を現し、これまで15試合6得点の林陵平は言う。
「(自分は途中で下げられ)大黒さんはフルタイム出場する。そうしたい監督の気持ちが分かるんです。状況がどうであれ、ワンチャンスあれば結果を出しそうに見える。そういう選手はアクシデントがない限り、ピッチに残しておきたいですよね。マークにつく選手は相当疲れるはずですよ。動き出しが早く、駆け引きがうまいから一瞬もすきを見せられない。一緒にプレーできて良かった。勉強になります」

 努めて謙虚に語った林だが、彼もまた結果が示すようにストライカーの素養に長ける。その眼で大黒のプレーを存分に盗んでやればいい。なお、今季の東京Vは林のほか、全試合出場中の藤田優人やユースから抜てきされた17歳の高橋祥平など、生きのいい新鋭が出てきたと(一部で)話題沸騰中である。

 ストライカーの育成において、大黒は最高の教材だ。未来のJリーガーよ、オフ・ザ・ボールの動きはテレビ画面では伝わりきらないため、スタジアム観戦がベストだ。味の素スタジアムで大黒を見るには、最もリーズナブルなゴール裏自由席は小学生以下前売り300円(当日500円)。中高生は700円(同1000円)。激安価格である。スタンドは意外なほど混み合っていないため、友だち10人連れでも仲よく固まって見られることを請け合う。

 ゴールに至る大黒のプレーはギリギリまで単純化され、研ぎ澄まされるがゆえの力強さがある。それにしても分からないのは、ストライカーの常套句(じょうとうく)として使われる得点感覚や嗅覚というやつだ。チャンスのとき、そこにいることが大事なんだと分かったような気になっているが、実際は持たざる者が知りえない領域を感覚や嗅覚というあいまいな言葉で埋めているに過ぎない。大黒はゴールの理由をロジカルなものだと話す。

「横浜FC戦のゴールは、滝澤さんがシュート態勢に入ったとき、枠を外すとしたらこのあたりにくるなと感じて走った。試合前、相手の最終ラインとGKの間に速いクロスを入れてほしいと要求していたことが、意識に影響した面もあると思います。結果、まさにその形でゴールになりましたからね。シュートが決まるまでの自分の判断材料はすべて説明できますよ。偶然のゴールなんてほとんどない」

 今季のJ2はまだ折り返し地点にも達していないが、リーグ最多得点の筆頭候補は大黒で動かない。頂点に立ったとき、きっと彼はもうひとつの誕生日を迎える。
 さて、本稿のラストは大黒との一問一答で締めるとしよう。

イタリアでやり続けたからこそ今がある

――シュートが決まらなくて、落ち込むことは?

「ないですね。むしろ撃ちまくってやります。次は絶対に決めると、常にポジティブに考える」

――2006年ドイツワールドカップのあとは?

「あれはちょっと引きずったかな。でも、それほど時間が経たないうちに、練習するしかないと気持ちを切り替えた」

――06年1月にグルノーブル(フランス)に移籍し、同年8月にトリノ(イタリア)に移りましたね。セリエAでの2シーズン、ノーゴールだったことをどう振り返りますか?

「あんまり試合に出られへんかったけど、日本では学べないことがたくさんあった。どうしたって過去は変えられない。イタリアで一生懸命やり続けたからこそ、今がある。あのときより確実にレベルアップできているし、これからもまだまだ成長できると思っている」

――J2でプレーすることにためらいは?

「なかった。まずはコンスタントにプレーすることが大事やったんで。昨季はオフの状態からシーズン途中に加入して、コンディションの面で苦労した。身体の調子が上がってきたところでけがの繰り返し。それでシーズンが終わってしまった。J2は試合がたくさんあるし、ちょうどええなと思ったくらい」

――本当に?

「チームを落とした責任がある。J1でやる方法はあったかもしれないが、そうしたくなかった。半年でさっさと出て行くなんて、サポーターにも悪い」

――どうせなら得点王を目指しましょうか

「そうなれば、チームにとってもいいこと。ただ、具体的に何点が目標といったものはない。いままで言ったことはあるかもしれないけど、本当のところは考えたこともない。とにかく、たくさん点を取りたい」

<了>

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著者プロフィール

1972年、福岡県生まれ。獨協大学卒業後、フリーライターとして活動。東京ヴェルディを中心に、日本サッカーの現在を追う。主な寄稿先に『週刊サッカーダイジェスト』『サッカー批評』『Soccer KOZO』のほか、東京ローカルのサッカー情報を伝える『東京偉蹴』など。著書に、東京ヴェルディの育成組織にフォーカスしたノンフィクション『異端者たちのセンターサークル』(白夜書房)がある。

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