中村俊輔がセルティックに残した足跡=背番号25が輝いた4年間の日々

豊福晋

ファンの記憶に刻まれた中村のFK

中村俊輔は、セルティックパークのサポーターから愛され続けた 【Getty Images】

 激しい闘志を見せなければ批判されるのがスコットランドである。独特の文化の中で学んだこともあった。07年に現役引退するまで中村の隣でプレーしたニール・レノンは練習でも、試合でも中村を叱咤激励した。紅白戦で何気なくアウトサイドでパスを出すと、隣のロイ・キーンが「丁寧にインサイドで出せ」と激怒したこともあった。

 現在チームのコーチを務めるレノンは言う。

「ナカは自分が一緒にプレーした中でも最高の選手だった。手本となるようなプロ選手だ。もうセルティックを去ることになるのだろうが、ヤツのプレーは忘れられないね。(06−07年シーズンの)チャンピオンズリーグ、マンチェスター・ユナイテッド(マンU)戦のFKに、リーグ優勝を決めたキルマーノック戦のFK。セルティックというクラブの歴史において欠かせない選手だった」

 セルティックパークの一室には、マンU戦で決めた中村のFKの写真が飾られてある。昨季終了間際、市内でつかまえたあるタクシー運転手は、後部座席に身を乗り出すと、そのFKの動画を誇らしげに見せてきた。4年間でピッチに残したものは、今もファンの記憶にしっかりと刻み込まれている。

セルティックサポーターも中村のスペインへの思いは分かっている

 中村のエスパニョル移籍の一報はグラスゴーでも大きく報じられた。セルティックも契約延長を提示していただけに、残念に思うファンも多かったことだろう。しかし、スペインは中村が一度はプレーしたいと常に思い描いていた場所。セルティックサポーターもそれを十分承知している。ストラカンは去り、新監督にはモウブレイが就任した。来季は変革のシーズンでもある。あこがれのスペインでプレーする中村を、セルティックサポーターはきっと温かい目で見つめるはずだ。

 セルティックパークが沸く瞬間がある。相手ゴールのネットが揺れたとき。中盤での激しいタックル。相手が永遠の宿敵であるレンジャーズともなれば、何気ないたった一つのプレーにさえ、地響きのような声がかけられる。そんな瞬間の一つにCKが加わったのは、中村がセルティックにやってきてからだ。中村がボールを転がしながらゆっくりとコーナーフラッグへと向かうとき、ゴール裏のファンは両手を掲げ、仰ぐようにゆっくりと下ろしていく。中村がスコットランドの地を踏んでからというもの、そんな光景がよく見られるようになった。

 迎える新シーズン、セルティックパークに中村の姿はない。コーナーフラッグの下、新たなキッカーがボールをセットするとき、ピッチを見つめるファンたちは中村に両手を掲げた4年間の日々と、スペインにいる中村の姿を思い出すことだろう。

<了>

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著者プロフィール

ライター、翻訳家。1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経てライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み現在はバルセロナ在住。5カ国語を駆使しサッカーとその周辺を取材し、『スポーツグラフィック・ナンバー』(文藝春秋)など多数の媒体に執筆、翻訳。近著『欧州 旅するフットボール』(双葉社)がサッカー本大賞2020を受賞。

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