最下位・横浜FCはどこへ向かうのか=J2低迷の原因

佐藤拓也

目標とするチーム作りには時間がかかる

ベテランの三浦知良(右)を追い越す若手の急成長も必須だ 【写真は共同】

 昨季からJ2で奮闘を続ける横浜FCだが、苦しむ理由はもう1つ存在する。それは、クラブの目標が「J1昇格」ではなく、「J1に定着できるチーム作り」であることだ。07年にJ1で惨敗の日々を過ごした横浜FCは、もう同じ過ちを犯したくないという思いが強い。しかし、J1昇格を決めたサッカーよりも、さらにレベルの高いサッカーを志しているがためにチーム作りに時間がかかるのも事実だ。都並監督、樋口監督共に目指すサッカーは違えども、高い目標だけはぶれることなくチーム作りを行っているからこそ、試行錯誤は続いている。

 都並監督時代に徹底したことはゾーンディフェンスであった。中でもボランチが相手に食いついてディフェンスラインの前にスペースを空けることはご法度。「J2ではそれで通用するかもしれないけど、J1ではそこを空けるとやられてしまう」と都並監督も語る。J1では相手に攻められる機会が増えるが、そこで焦らずに守ることでリズムをつかむ狙いがあった。
 昨季、ダントツの強さを誇ったサンフレッチェ広島との3度の対戦では、試合ごとに力の差は縮まっていき、最後は互角以上の内容でドローに持ち込んだ。時間はかかりながらも進むべき道が正しいことを証明してみせたのだ。

 また、樋口監督は昨季大宮の監督を務めたときに「自分たちで主体性を持ったサッカーではないとJ1に定着できない」と感じたという。だからこそ、どの試合でも自分たちで主導権を握り、ゴールを目指す攻撃サッカーを標榜(ひょうぼう)している。
「理想はガンバ大阪のようなサッカー」と樋口監督は語る。圧倒的なボール支配率で勝利した今季第9節の水戸ホーリーホック戦が最も目指すべき道を示した試合であった。

必要なのは明確なビジョン

 だが、いかんせん選手のレベルがついてきていないのが実情だ。J2降格とともに主力選手の多くがチームを去り、大幅に選手の若返りを図ることとなったが、チーム全体の経験不足は否めず、監督の目指すサッカーを体現できないでいる。三浦知良や三浦淳宏ら大ベテランも存在するが、彼らを追い越す選手が出てこないことも問題だ。
 時間をかけながら若い選手たちを成長させることでチームを熟成していくしか方法はないが、毎年監督を交代しているようでは進歩はない。チーム作りを我慢できないのならば、あらかじめ掲げる目標を変えた方がいい。「予算はリーグでも上位ではない」(小野寺裕司社長)というクラブ事情の中で必要なのは明確なビジョン以外に考えられない。

 横浜FCは6月3日に行われた第19節のアビスパ福岡戦で敗れ、19試合連続ホーム未勝利というJ2記録を更新。試合後にサポーターから激しいブーイングが巻き起きた。彼らが怒っているのは負けたからだけではない。チームが目指す道が見えないから怒りが増幅しているのだ。
 横浜FCはどこに向かおうとしているのか。それを示すことが今最も求められていることである。現在の状況は、4年間クラブとしてのビジョンを示せずにいたことの表れだ。迷走を続け、こびりついた垢はやすやすと落とせはしない。

<了>

2/2ページ

著者プロフィール

1977年7月30日生まれ。横浜市出身。青山学院大学卒業後、一般企業に就職するも、1年で退社。ライターを目指すために日本ジャーナリスト専門学校に入学。卒業後に横浜FCのオフィシャルライターとして活動を始め、2004年秋にサッカー専門新聞『EL GOLAZO』創刊に携わり、フリーライターとなる。現在は『EL GOLAZO』『J’s GOAL』で水戸ホーリーホックの担当ライターとして活動。2012年から有料webサイト『デイリーホーリーホック』のメインライターを務める。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント