福留もいたって冷静 MLBのインフルエンザ対応

近藤祐司

カブスの選手も記者もマスクは皆無

福留はインフルエンザに対しても冷静な対応をみせる 【Getty Images】

 先日、カブスの取材でシカゴにあるリグレー・フィールドに行ってきた。出国したときの日本は、新型インフルエンザの感染拡大の予防策として、イベントや集会が各地で中止され、人と握手することさえ気をつかってしまう雰囲気であった。

 予防のためマスクを付け、世界で最も感染者が多いアメリカに入国すると、入国審査官さえもマスクを付けておらず、いつもと変わらない光景。リグレー・フィールドに向かう電車の中も、カブスファンで混雑していたが、マスクを付けている人はほとんど見かけなかった。

 選手の体調管理には細心の注意を払うメジャーリーグ球団も、今回の新型インフルエンザへの対応は、じつに冷静である。カブスの広報担当者に聞いてみると、「swine flu(豚インフルエンザ)の予防のため、最近のミーティングで選手たちに手洗いを徹底することはトレーナーからも伝えられている。われわれも、万が一に備えて、検査キットやタミフルをいつも備蓄している。だが、今回のウイルスは弱毒性だと聞いている。試合を中止したり、無観客で行う予定は今のところまったくないよ」と言う。

 メジャー2年目のシーズンを迎えている福留孝介選手に話を聞こうと、今度はクラブハウスに足を運んでみた。古いことで有名なリグレー・フィールドのクラブハウスは、30球団で一番狭いことでも知られ、この日も試合前は選手や番記者でごった返していた。だが、ここでもマスクをつけている人など、皆無であった。

 そんな中、試合前の時間を福留選手はロッカーの前に座って、西村京太郎の『十津川警部の抵抗』を読みながらリラックスしている様子。本を置いて取材に応じてくれた福留選手に早速、聞いてみると、「日本では大変な騒ぎになっているみたいですね。こっちは街でマスクをつけている人さえいませんよ。気にしすぎてもしょうがないですからね」
 福留選手によると、20連戦を終えて、久しぶりだった昨日のオフは、久し振りに家族と一緒にゆっくり過ごしたという。警戒して外出を避けようかという気持ちにもなるところだが、福留選手は家族で大型玩具店に買い物にも出掛けたそうだ。
「最近、たしかに手はよく洗うようになりましたが、基本的にはいつもと一緒ですよ」と福留選手は野球にのみ集中している様子であった。

有効な予防策はしっかり浸透

 客席の間隔や通路が狭いことでも知られるリグレー・フィールドの観客席に出て取材をしてみた。ここも、いつもと変わらない光景であった。家族連れで楽しむファンや、気の合う仲間同士でビールを飲みながら楽しんでいるファンでスタンドは埋め尽くされていた。表面的には、やはり新型インフルエンザのことなど気にしている雰囲気は全くない。

 “アメリカ人は楽観的すぎるのだ!”と言ってしまえば、それまでかもしれない。だが、アメリカ社会は9.11以降、このように「見えざる敵」と戦う術を国民がすでに身につけているのだ。テロ防止のための飛行機に乗る際やスタジアム入場の際の持ち物検査は、今でも日本よりはるかに厳しい。21世紀、人類の脅威になるとされているバクテリアやウイルスなどの細菌に対しても、日本の過剰すぎる反応とは違い、冷静な予防策が講じられている。

 今回のインフルエンザに対しては、季節性インフルエンザと症状があまり変わらず、致死率も低いことが報じられると、リーグはそれに応じて選手たちに“手洗い”や“消毒”を行うことを徹底させて感染を予防し、あとは普段通りスケジュールを消化している。ここでパニックに陥れば、“見えざる敵”に振り回されてしまう。「見えざる敵との戦い」に克つ術は、各自でできる予防を心がけ、情報を公開し、人、物、金の流れをできるだけ止めないように普段の生活をすることが重要なのだ。

 取材を終えて、リグレー・フィールドから電車に乗って宿泊先に戻る途中、アメリカらしい楽しい光景を目にした。電車に同乗していたリグレー・フィールドの従業員らしいグループが車内で突然、面白おかしそうに商売を始めてしまったのだ。

「手の消毒ジェルをワンポンプたっ の25セントで使わせてやるぜ! インフルエンザには手を清潔にすることが一番大事だ! どうだ?」

 近くに座る見知らぬ男性が「10セントに負けてくれないか?」と真顔で応じると、車内には笑いが広がっていった。マスクを付ける人はほとんど見かけないが、市民にも新型インフルエンザに有効な予防策がしっかりと浸透しているようだ。

「見えざる敵との戦い」が本格化してきた様相のこの21世紀。日本にいるわれわれも、できるだけ趣味やスポーツを楽しむなど、普段通りの生活を心掛けたいものだ。

<了>
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

1974年1月21日生まれ、京都市出身。立命館大学パンサーズ時代にアメリカンフットボール日本代表に選ばれた経験を持つ。長年の在米経験で得た英語力を武器にした海外取材力は、専門記者をも圧倒。豊富な知識と現地情報を同時通訳する実況で、アメリカンフットボールのみならず、野球、ロードレースなど多くの分野で活躍している。日本では数少ないスポーツ専門のアンカーマン

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント