危機に瀕するアルゼンチンサッカー=コパ・リベルタドーレス2009での惨敗

“U−23”あるいは“オーバー30”

エストゥディアンテスでプレーするベロン(左)。アルゼンチン国内では若手とベテランが多くプレーする 【Photo:ロイター/アフロ】

 なぜ、このようなことが起こるのだろうか? 理由はいろいろと考えられる。1つは、メディアが試合結果や獲得タイトルだけを基準にして、“失敗”“成功”を判断するからだ。そうなると、ちょっと結果が出ないだけで、監督はすぐにチームを去らなければならない。

 現在行われているリーガ・クラウスーラ(後期リーグ)は11節を終え、折り返し地点を過ぎた(全19節)。すでにラシン・クラブ、インデペンディエンテ、サン・ロレンソ、ロサリオ・セントラル、エストゥディアンテス、ヒムナシア・フフイ、バンフィールドで監督が交代(ロサリオ・セントラルは2回)。つまり20チーム中、7チームがクラブのプロジェクト――多くの場合は、大会中だというのに戦術さえも――変更を余儀なくされたというわけだ。こうした事実が暗示しているのは、チームの不安定さである。

 またアルゼンチンでは、選手の“輸出”というジレンマを抱えていることも事実だ。国内リーグはもう何年も、“U−23”あるいは“オーバー30”の様相を呈している。つまり実質的に、サッカー選手として脂の乗る20代半ばから後半の選手がいないということだ。そのため、チームには若手かベテランが多くなり、輝かしい未来のある若手のスターは、活躍するとすぐに欧州へと旅立ってしまう。一方で、引退間際のベテランやすでに海外で一花咲かせた選手が、キャリアの最後に思い入れのある国内のクラブでプレーしている。キリ・ゴンサレスやエセキエル・ゴンサレス(共にロサリオ・セントラル)、ロベルト・ソサ(ヒムナシア)、ファン・セバスティアン・ベロン(エストゥディアンテス)、マルセロ・ガジャルド(リーベル)……。“セミ・プロフェッショナル”“ポスト・プロフェッショナル”とも言える世界だ。

 選手の“輸出”にともない、アルゼンチンのサッカーを生み出してきた鍵となるポジション――クリエーティブMFやサイドバック、あるいはセントラルMFの喪失も問題となっている。彼らは異なるヨーロッパスタイルのサッカーに自らを適応させようとしている。テクニックを修正し、かの地の戦術に合わせているのだ。
 今日では、多くのチームが4人のMFを置くシステムを採用している。そのうち2人はセントラルで、もう2人はサイドに位置する。前線にはFWが2人。伝統的な背番号「10」は影を潜め、中盤の選手はウインガーとしての役割を求められることも多くなった。

 経済、テクニック、戦術、文化……原因はさまざまだが、アルゼンチンサッカーは進むべき道を失ってしまったようだ。その結果として、彼らは高い代償を払うことになるかもしれない。

<了>

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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