オランダ王者AZが重視した“キャラクター”=中田徹の「オランダ通信」

中田徹

キャラクター重視の補強方針が実を結ぶ

若い選手をまとめ、優勝に導いたファン・ハール監督(右)。名将の誉れにふさわしい手腕を発揮した 【Photo:ロイター/アフロ】

 キャラクター重視のスカウティング。それは昨季の不振に理由がある。オランダ代表のデミー・デ・ゼーウはチーム同様、個人的にも不振に陥っていたが、当時オランダのメディアに「今のAZはロッカールームの雰囲気がよくなく、トップチームの雰囲気作りができていない。中には練習に遅刻してくる選手がいる」と内情を暴露。AZの選手の中に“腐ったりんご”がいることが明らかになったのだ。この“腐ったりんご”の存在(恐らく昨季退団した選手の何人かだろう)を、AZの選手は決して否定しない。これは昨年3月、ファン・ハールの辞任騒動のきっかけの1つとなっている。
 AZの選手はまだブレークし切れていないが、才能は素晴らしいものがある。しかし“腐ったりんご”が象徴するように、メンタル面では疑問符のつく選手がいた。ならば、もっとエゴのない、キャラクターに優れた選手を獲得しようと今季の補強方針を変えたのである。

 そういえば、ファン・ハールは優勝の要因について、エル・ハムダウイが素晴らしい役割を果たしたこと、開幕2連敗した後コンパクトなカウンターサッカーにして成功したことなどを挙げているが、「スハールス、ディドゥリツァ、ラウリンクといった昨季負傷していた選手が戻ってきたのも大きい」と語っている。これは面白い。
 スハールスの名前が挙がったのは十分理解できる。ここ1年半、スハールスはひざの負傷に悩まされ続けていたが、今季は完全に復活し、主将として素晴らしいリーダーシップを発揮した。また昨年3月にファン・ハールが辞任を表明すると、スハールスはヤリンスやメンデス・ダ・シルバとともに「僕たちはファン・ハールの下でサッカーをやりたいんだ」と首脳陣に直談判し、さらにはファン・ハールの決意も翻意させた。
 今季AZ成功の原因の1つはファン・ハールの存在にあるから、スハールスらが指揮官を引き止めたこともまた優勝の遠因となっている。

ファン・ハール監督は控え選手の姿勢を評価

 しかし、控えGKのディドゥリツァは正GKロメロの負傷により最近でこそゴールを守っているものの、レギュラー選手ではない。ラウリンクに至ってはほとんどベンチ要員で出場機会はかなり少ない。それでもディドゥリツァとライクスは、控え選手ながらも常に試合に出られるよう準備をしただけでなく、ロッカールームでリーダーシップを取り続けたことをファン・ハールは評価しているのである。こういった選手たちがヤリンス以外にもいれば、昨季のAZの低迷はなかったかもしれない。

 昨季の不振から、いかに規律に厳しいファン・ハールといえども、やはりロッカールームの雰囲気までは力が及ばないことが分かった。今季の優勝から、ピッチ内外できちんとリーダーシップを取ることができる選手が必要なこと。キャラクターと才能のバランスがいい選手が集まれば、ファン・ハールはキッチリと選手とチームをレベルアップさせることも分かった。
 そして来季、いよいよAZはチャンピオンズリーグという大舞台に挑戦する。今季のキャラクター重視のスカウティングだけでは限界があるだろう。
「われわれの来季の目標はあくまでオランダリーグ5位以内」と控えめなAZの首脳陣だが、それでも優れたタレントを獲得してパワーアップを果たしたいところだ。

<了>

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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