愛媛FC、躍進の秘密

寺下友徳

体現する「E−Spirit」

 もう1つ、普段の練習を見ていて大きな変化を感じるのは、チーム内における競争意識、かつ戦術共有意識の向上である。最大で31名を抱えていた昨シーズンは、試合に出場できる選手とできない選手のモチベーションの差が大きく、練習中にも緊張感を欠く場面が目立った。だが、J1・J2含めて最小の登録23名でスタートした今シーズンは、「今は目が行き届いているので、みんなチャンスだと思っている」と望月監督も認めるように、ともすると削り合いに近いような激しいバトルがトレーニング中から展開されている。さらに、紅白戦の合間や練習後にも、選手間で修正点を確認する姿が多く見られるようになった。

 となると不思議なもので、選手たちの発言も自然と前向きになってきている。昨シーズンは途中でサイドハーフからボランチにコンバートされ、その難しさを口にしていた赤井秀一が、「ボランチは展開とかを考えながらやるので難しいが、難しいだけにやりがいがある。ボランチが楽しくなったら成長できるし、課題をクリアしたい」と、今季は強い意欲を語る。
 攻守にわたる天性のスピードを持ちながら、メンタルコントロールに問題を抱えていた内村も、「昨年はコーチングがなかった部分もあったが、今年は奪ったときに相手が整っていない場合は、スピードに乗って仕掛けていこうとみんな言ってくれている」と、今季3ゴール、1アシストの好調が周囲とのコミュニケーションの改善によるものであることを明かす。

 ちなみに、今シーズン愛媛が掲げたスローガンは「E-Spirit-EHIME〜ひとつになって闘う〜」というもの。その意味において、「昨シーズン終盤に感じたことを来シーズンのスローガンにしている」望月監督の狙いは、ここまで見事に的中していると言ってもいいだろう。

今季の分岐点となり得るC大阪との首位決戦へ

 だが、開幕から結果を出しているその一方で、スタッフ、選手共に現状を楽観視してはいない。望月監督が「昨年の終わりの方がいいサッカーをしていた。内容的には悪いし……」と語れば、DF金守も「まだ上位のチームとやっていないので、何とも言えないところ」と気を引き締める。さらに、23名という小世帯にもかかわらず、GK川北裕介、FW大木勉、MF田森大己といった主力級にけが人が相次いでいる中では、「人が足りない」と事あるごとにこぼす望月監督のボヤキも本音そのものに違いない。

 そうなると、3月29日にホームのニンジニアスタジアムで14時にキックオフされる第5節・C大阪との首位決戦が、愛媛にとって「チームがどれだけの完成度か分かる」(FW内村)戦いとなるのは必定だ。ディフェンス面では、望月監督が「真ん中でみんな跳ね返してくれる」と信頼を置く新加入のアライールを中心に安定の度を高めているだけに、攻撃面で「前を向いて仕掛け、相手3バックの裏にあるスペースをうまく使えるか」(FW田中)がポイントになるだろう。

 思い返せば、このニンジニアスタジアムでのセレッソ戦は、愛媛にとって昨年4月29日に1−4と惨敗を喫し、チーム初の最下位に転落した因縁のゲームでもある。敗北のその瞬間、キャプテンとして屈辱の笛を聞き、試合後に涙を流したDF金守はC大阪戦に向けてこう決意を語る。

「C大阪戦を乗り越えるか乗り越えないかで、1年が決まるような気がする。監督からもミーティングで『1年通じてのポイントになる』という話もあったし、みんなで雰囲気を作っていきたい。自分たちの強みは走ることと、1つになって戦うこと。1つになれればC大阪にも戦えると思う」

<了>

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著者プロフィール

1971年、福井県生まれ。大学時代に観戦したJリーグ・ニコスシリーズ第15節の浦和−清水(国立)の地鳴りのように響く応援の迫力をきっかけに、フットボールに引き込まれた。ファストフード会社店舗勤務、ビルメンテナンス会社営業、コンビニエンスストア販売員など種々雑多な職歴を経ながらフットボールを深く探求するようになり、2004年から本格的な執筆活動を開始。07年2月からは関東から四国地域に居を移し、愛媛FC、高校野球など四国のスポーツシーンを追い続けている。

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