ネドベド、かなわなかったCL決勝への思い

木村かや子

新天地ラツィオでの栄光

カップウィナーズカップを制し、トロフィーに口づけするネドベド。ラツィオで数々のタイトルを獲得した 【Photo:Getty Images/AFLO】

 1996年、23歳のネドベドはスパルタ・プラハからイタリアのラツィオに移籍した。その数カ月前には、チェコ代表とともにユーロ(欧州選手権)96の決勝に進み、延長戦の末にドイツに敗れたものの、大会でセンセーションを巻き起こしていた。ネドベドは9月にセリエAデビューを果たすや、見る見るうちにその存在感を見せつける。「身につけたユニホームに忠義をつくす」という姿勢はこのときからのもので、アトレティコ・マドリーなど他クラブからより条件のいいオファーを受けた際にも、彼はこれを拒否していた。

 ラツィオでの3シーズン目には故障に苦しめられたが、出場試合は少なくとも、大事な試合で自分の印を刻んでいる。まず自らのゴールでユベントスを倒してイタリア・スーパーカップを制し、マジョルカとのカップウィナーズカップ決勝でも、81分の勝ち越しゴールでチームを勝利に導いた。これにより、99年のUEFAスーパーカップへの出場権を得たラツィオは、そこで3冠を達成したばかりのマンチェスター・ユナイテッドを撃破するという快挙をやってのけた。

 国内リーグでは、98−99シーズンのセリエAで最後の瞬間にミランに追い抜かれ、タイトルを逃していたラツィオは99−2000シーズン、ついに74年以来、2度目の歴史的スクデット――イタリア・チャンピオンの栄冠を勝ち取った。スベン・ゴラン・エリクソン率いるこの時期のラツィオが、ネスタ、ベロン、マンチーニ、アルメイダら多くの名選手を擁していたのは事実だとしても、クラブの黄金期とネドベドの所属期間が重なっているのは、偶然のたまものではないだろう。またこのシーズンの終わりに、マンチェスター・ユナイテッドから巨額のオファーを受けたことも、ネドベドが世界に与えた強い印象を物語っている。

ユベントスへの移籍

 ユナイテッドのオファーを退けたネドベドが、その1年後の01年夏にユベントス移籍を決めた理由は、大ざっぱに言って2つある。第一に、少ない資金を使って良い選手を集めていたラツィオが深刻な財政危機に陥り、高い値のつく選手を売らねばならない状況に追い込まれていたこと。そして同時に、愛するクラブに念願のスクデットを授けたネドベドが、夢のCL獲得を目指して新しい出発をするにふさわしい時期が来た、と考えたためだった。

 ユベントスに渡ったネドベドは、瞬く間にファンの心をとらえた。その理由は、彼の技術、疲れ知らずの並外れた身体能力のみではない。戦略への順応性、何よりどんな努力もいとわず、喜んでチームのために奉仕する姿勢も、彼がクラブの皆にとって非常に貴重な存在となった要因だった。チームを助けるためなら、ネドベドはいかなる労力も惜しまない。ウイングからトップ下、ボランチの役まで、リッピ監督が命じたすべての役割を喜んで引き受けた。彼の天性のポジションは左ウイングだと言われているが、ユベントスでの初年度は「トレクアルティスタ」、つまりトップ下のポジションで成功を収めている。それは左右前後に自由に動くことを許された、言ってみれば“ジダン風”のポジションだった。

 もともとユベントスは、ジダンの抜けた穴を埋めるべくネドベドを獲得した。来た当初は、芸術家肌のジダンと、気迫と運動量で秀でるネドベドはタイプが違うと言って、疑心暗鬼な目を向ける者もいた。ネドベドは90分を通してピッチを絶え間なく上下する恐るべきスタミナを誇り、自らボールを奪っては素早く攻撃のアクションに転じる才覚を備えた、万能なMFだ。確かにタイプは違ったが、ネドベドは重要な試合で違いを生むその精力的なプレーでチームを駆り立てた。おかげで驚異的な挽回(ばんかい)を見せたユベントスは、最終節にインテルを追い抜いて優勝。ネドベドはトリノでの初シーズンに、早くもジダンの不在を忘れさせることに成功したのである。

2/3ページ

著者プロフィール

東京生まれ、湘南育ち、南仏在住。1986年、フェリス女学院大学国文科卒業後、雑誌社でスポーツ専門の取材記者として働き始め、95年にオーストラリア・シドニー支局に赴任。この年から、毎夏はるばるイタリアやイングランドに出向き、オーストラリア仕込みのイタリア語とオージー英語を使って、サッカー選手のインタビューを始める。遠方から欧州サッカーを担当し続けた後、2003年に同社ヨーロッパ通信員となり、文学以外でフランスに興味がなかったもののフランスへ。2022-23シーズンから2年はモナコ、スタッド・ランスの試合を毎週現地で取材している。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント