「秋山はアメリカなら“韓国人”になれる!!」菊地成孔氏がUFC参戦を読み解く
秋山のUFC参戦を菊地成孔氏が読み解く 【(c)kamipro】
――今回は、秋山のUFC参戦に関してうかがいたいんですが、最初にニュースを聞いたときはどう思われました?
菊地 ワタシは『kamipro』誌上を含め、そちこちで以前から「秋山はUFCに行ってほしい」と発言してきたんですね。しかも「できれば韓国籍で」と。
――ええ。おっしゃってましたね。
菊地 秋山は「韓国人になりたくて仕方ない日本人」ですから。だから、今回のニュースを聞いて「やったー」という気持ちでしたね。「韓国人としてオクタゴンに上がってほしい、上がるべきだ」というのは本気で思ってましたから。
――おもしろおかしく言ってたわけじゃない、と。
菊地 ただワタシ、コレよく経験するケースなんですが、ワタシがこういうことを言うと、言った瞬間はかねがね「ははは、おもしろいねえ」とか「アホか」とか「聞きたくもない」と言われまして(笑)。まあ、多くの方にとって積極的に考えたくもない話なのだな、と。ですから今回の痛快さはひとしおですね。
――実際、秋山も韓国代表みたいな気持ちは絶対にあると思うんですよ。
菊地 でも、UFCの選手紹介で“KOREA”とは出ないですよね?
――おそらく“JAPAN”でしょうね。
菊地 “KOREA”って出たら、もの凄く興奮して立ち上がってしまうと思います。日本でワタシだけだと思いますが(笑)。
――ただ、それすらも「やりかねないな」という部分もあるんです。
菊地 そんなんなったらPRIDEがなくなって以来、最もヤバいニュースじゃないですか。
「韓国の秋山」としてUFCに上がる日は来るのか 【(c)乾晋也/kamipro】
菊地 そうですね。でも日本人としてでも全然いいですよ。ただ、ワタシはなぜか「秋山は一回だけPRIDEに上がった経験がある」と錯覚してたので(笑)。それだったら“KOREA”は無理だろうな、と。
――UFCオーナーのズッファ社はPRIDEの映像の権利も持ってますから、「PRIDEにいた日本人選手」と紹介されるのではないか、と。
菊地 でも、PRIDEに上がってないなら「韓国からのニューカマー」「韓国の大スター」と言われる可能性はゼロじゃないですね。とにかく感慨深いです。世紀の転換というか、20世紀が終わり21世紀がきて幾星霜ですけど。やっぱり前の年代って引きずるじゃないですか。93年くらいまで80年代だったりしてさあ。
――いきなり、パカッと変わるわけではないですね。
菊地 去年や一昨年ぐらいまで、「まだ20世紀」だったと思うんです。ワタシは「今年あたりから21世紀になるな」と思ってまして、秋山が“KOREA”としてUFCに出たら、あまりに鮮やかにそのことを示すことになりますよね。つまり格闘技興行ビジネスも含めた、日韓米三国のパワーバランスですが。仮に力道山をスタート地点とする、朝鮮戦争やらなんやらみんな含めたこの20世紀的なバランスが崩れますね。
――そのきっかけが秋山のUFC参戦だ、と。
菊地 ええ。秋山はミドル級ですよね。ダンヘンやヴァンダレイもいる階級で、チャンプはアンデウソン・シウバでしょ、これひょっとしたら勝ちますよ。
――王者間違いなしですか。
菊地 そこまで考えてもいいんじゃないですかね、景気よく。秋山はいま33歳、宇野と同い年ですけど。あ、宇野もUFCに行くんですよね? どうなんでしょう、それって。やはり「DREAMでは肩身が狭かった」ということなんでしょうか。
米国でも“秋山フィーバー”が来る!? 【(c)乾晋也/kamipro】
菊地 もっとスポーツライクにやりたいわけですね。
――ええ。本人はプロレス好きを公言しているんですけど。
菊地 プロレスの外装だけが好きな感じね。「僕、こう見えてもプロレス好きなんですよ」という格闘技の選手にありがちな(笑)。まあ宇野には宇野の、秋山には秋山の「イジられたくなさ」があるんだろうけど。いずれにせよ「『HERO’S』と元PRIDEが大同団結」で「夢のDREAMカンパニー」と言ったとこで、DREAMはPRIDE残党が運営してるかぎり本家と外様のヒエラルキーが存在するということですね。
――そこはファンもわかってますね。
菊地 そんな中、元『HERO’S』勢がこぞってUFCに行くのは健康的ですよ。あくまでワタシ個人はですが、しがみつき全般をよしとしません。「PRIDE残党によるPRIDEへのしがみつき」も気持ちはわかるがやめたほうがいい。とはいえ、そんなみみっちい感じも人間の属性ですし、それによって『HERO’S』勢は、集団転校生みたいな感じになったというか。
――所(英男)くんは、なじもうなじもうと頑張っている感じで。で、山本KIDは「いまだに登校してこない」みたいな(笑)。
菊地 基本、不登校ですよね。(笑)。
――学校に来たら「毎日、青木(真也)が騒がしくてしょうがない」「不良の川尻(達也)にはケンカを売られるし」って感じで(笑)。
菊地 宇野がUFCに行くのはどうしても出戻ったようなイメージになりますから、その例えで言えばもともといたアメリカンスクールに戻ったことになり、これまたバッチリですが秋山がアメリカンスクールにいきなり行くのは最高ですよね。日本人は出てきたニュースにじっくり距離をとって反応するから、いまは静観して秋山の初戦終わりでああだこうだ言うと思うんです。でも、秋山がDREAMでおかしな状態になってる段階から「UFCが一番いい」と言っていた身としては、もうこの段階で……(両手でオッケーポーズ)。
――このチョイスだけで上出来。
菊地 初戦がどうであれ、すでにこの発表段階で一勝あげているわけです。まあ、これは「秋山は日本では韓国人になれなかったが、アメリカでは韓国人になれるかもしれない」という物語ですから。なんて言ったらいいか、とにかく21世紀です(笑)。
※このあとも「UFCの試合後に何語でしゃべるのか? そこで秋山の初期設定は全部決まる」「ニックネームが“KOREA”で、名前が“AKIYAMA”で、国籍が“JAPAN”。これはもう、日本初のカラード文化の誕生ですよ」等々、菊地氏の独自の秋山論はまだまだ続く。気になる方は『kamipro』No.133をチェック!!
【09年3月2日/都内・菊地氏の事務所にて収録】
(聞き手/ジャン斉藤 大会撮影/乾晋也)
『kamipro』No.132
【(c)kamipro】
発行/エンターブレイン
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