洛南が史上2校目の3連覇を達成=高校選抜バスケ

小永吉陽子

作戦と運が的中した洛南に勝利の女神は微笑んだ

史上2チーム目のウインターカップ3連覇を遂げた洛南(京都)。3年生の力と下級生の著しい成長が優勝をもたらした 【(C)JBA】

 2年連続となった洛南(京都)と福岡第一(福岡)の男子決勝戦。両者の「勝ちたい」思いがコートからビシバシと伝わってくる“熱い”ファイナルバトルが展開された。

 出足から外角シュートでリズムをつかんだ福岡第一が、前半終わって10点のリード。洛南は福岡第一の留学生、201センチの長身を誇るセック・エルハジ・イブラヒマを警戒するあまりに遅れを取ったが、第3ピリオド終了時にはその差を何とか5点まで縮めた。
 第3ピリオドの終盤、洛南の吉田裕司コーチは2分半ほど、エース比江島慎をベンチに下げる決断に出た。そして、勝負どころは第4ピリオド開始直後にやってきた。

「吉田先生は僕が焦っているのを見抜いて休養をくれたので、コートに出たら思い切り行くぞと思っていました」という比江島がコートに戻るやいなや、一気に2連続ゴールで1点差。さらに、洛南はディフェンスで1−2−2のオールコートプレスとマンツーマンを併用し、福岡第一のリズムを狂わせ始める。以後、両者譲らない緊迫感あふれる展開が続いたが、勝負を決定づけたのは比江島の神がかった1対1。残り22秒、決勝点となった73点目のゴールは、ボールがリング上で4度もはね、勝利の神様もどちらに軍配を上げようか迷うほどの熱戦を示しているようだった。
 残り2秒、最後の攻めをエース狩野祐介に託した福岡第一だが、洛南のディフェンスに囲まれてタイムアップ。洛南が73−71で勝利し、3年連続4度目の優勝を果たした。ウインターカップの3連覇は、過去に能代工(秋田=3連覇3回、4連覇1回)しか達成したことがない偉業だ。

 福岡第一は最後まで気力を振り絞っていたが、土浦日大(茨城)、藤枝明誠(静岡)、明成(宮城)、八王子(東京)と初戦から気の抜けない試合が続いたことでスタミナに影響したのか、自慢のディフェンスが「最後は焦点が絞り切れなくなっていた」(井手口孝コーチ)と後手に回った。洛南がエンジンをかけたのは準決勝の延岡学園(宮崎)戦から。組み合わせの運も、洛南に味方したのかもしれない。

ウインターカップを制する3つの鉄則

福岡第一(福岡)は鍛え上げられたチームディフェンスで、厳しい5連戦を乗り越えてきた 【(C)JBA】

 1年間の総決算であるウインターカップは“本当に強い者が勝つ”大会と言われる。「3年生の責任感とまとまり」「下級生の成長」「1年間を通してチームが進化し続けること」――この3つの鉄則を持つチームが上位進出することは、過去の大会から見ても明白だ。

 1年時から優勝の味を知る洛南の佐藤将斗、比江島、谷口大智ら3年生は「ウインターカップだけは譲れない」とプライドを口にする。伝統校らしく、毎年この時期には有望な下級生も必ず戦力となっている。特に今年は、2年生ガードの蛯名涼が要所でインサイドプレーを仕掛けるなど、相手の意表を突く戦術も見事に効いていた。
「洛南は全員がオールラウンドなプレーを目指しているので、自分が外から打つ場合もあれば、蛯名のようなガードがインサイドをやることもある。中と外のプレーの見極めができるようになって蛯名は成長した」と大黒柱の谷口は下級生の頑張りをたたえていた。

 福岡第一も同じだ。3年生の狩野、早川ジミーがインターハイ決勝で敗れた無念や、国体出場を逃した悔しさをぶつけながらチームをけん引。無念さを味わった先輩の背中を見て2年生が育った。玉井勇気の強気なプレー、和田直樹の冷静なパスさばき、園幸樹の度胸満点のプレーは、チームに活気をもたらした。最後の大会で一丸となったチームにこそ称号が与えられるのが、ウインターカップなのだ。

留学生の加入が、日本人選手の質を向上させた

男子大会ベスト5。(左から)比江島慎(洛南3年)、谷口大智(洛南3年)、狩野祐介(福岡第一3年)、和田力也(延岡学園3年)、エルハジ・ゴールギ・ワドゥ(八王子3年) 【(C)JBA】

 今大会は福岡第一、延岡学園、八王子といったセネガル人留学生を擁するチームがベスト4に進出した中で、日本人選手だけで構成される洛南が優勝を遂げた意味は大きいと言える。洛南以外の3校にしても、留学生の力だけで勝ち上がったわけではなく、チームとして機能していたからこその上位進出であったことは間違いない。だがどうしても、最後の砦に“異次元の身体能力”が待ち構えていることは、日本人チームにとっては脅威の的である。それでも立ち向かわなければ日本一はつかめないと、真っ向勝負を挑んだのは優勝した洛南と、福岡第一に準々決勝で敗れた明成の2チームだった。

 洛南、明成ともに「パスアンドランで崩して、どこからでも攻める」ことに特色を求めたことは同じだ。明成はよりスピードと運動量を追求。洛南はチームのサイズアップを図り、比江島と谷口というU−18日本代表選手の技量の高さを持って、優勝をもぎ取った。両校に代表されるように、試行錯誤しながらも留学生と対峙(たいじ)することで、日本人選手の技術はここ数年で格段に向上している。

 高校バスケット界で留学生加入の是非が問われて数年経つ。大会直前には、福岡第一の2005年大会時における留学生の年齢詐称が発覚して問題にもなった。ルールと経緯についてはきちんと議論されなくてはならないことだ。その一方で、留学生を擁するチームにしても、日本人チームにしても、質の高い選手やチームが増えてきていることを受け止め、今後の日本の強化につなげていく道を探るべき時に来ているのではないだろうか。

<了>
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著者プロフィール

スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者となる。日本代表・トップリーグ・高校生・中学生などオールジャンルにわたってバスケットボールの現場を駆け回り、取材、執筆、本作りまでを手掛ける。

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