名横綱・輪島が語るプロレス転向の真実

Gスピリッツ

大相撲の横綱からプロレスに転向した輪島。本人の口から明かされた知られざる真実とは? 【(C)原悦生/Gスピリッツ】

 昭和の全日本プロレスを振り返る上で、輪島大士は欠くことのできない存在だろう。誰もが知っている天下の大横綱がプロレスに転向する――。現役引退から5年経っていたとはいえ、それはセンセーショナルな話題として世間の注目を集めた。わずか2年ほどのレスラー生活で、輪島は何を感じ、何を思ったのか? 今、本人の口から知られざる真実が明かされる。

もう2年ぐらいしか身体はもたないと思っていた

大横綱のプロレス参戦は大きな衝撃を与えた 【(C)原悦生/Gスピリッツ】

――今日はプロレス時代のことをたっぷりと語っていただきたいんですが、とにかく『日刊スポーツ』が一面で横綱の全日本入団をスクープした時はビックリしましたよ。まったく寝耳に水の話でしたから。

 僕自身がビックリしましたよ。その前の晩、パーティーで新宿のホテルに泊まっていたんだけど、朝6時ぐらいにマネージャーから電話が掛かってきてね。「一面に出ていますよ!」って。まだ(プロレス入りを)決めていない時だったんですよ。

――今だから明かせる話として、どういう経緯でプロレス転向、全日本入団となったんですか?

 いろいろ周りが動いてくれたんですよね。まあ、僕もいろんな問題があったから(苦笑)。それで何年間かアメリカに行った方がいいんじゃないかっていう話の中でたまたま馬場さんの話が出てきて、後援者が間に入ってくれてね。僕も石川(敬士)君と相談して、それで馬場さんに話したら「いいよ」と。

――事前に石川さんに相談していたというのは初めて知りましたよ。相撲を引退されてから5年、38歳での転身というのは、今考えても凄い決断だったと思います。ましてや天下の大横綱だったわけですから。

 社会人として、ひとつの挑戦でしたね。あの頃はいろいろありましたから……。自分の人生を試すっていったらおかしいけど、やっぱり「もう1回!」っていう気持ちでしたね。

――不安はなかったんですか?

 そりゃあ、ありますよ。だって、プロレスを全然知らないんだもん。それまで相撲しかやってないんだもん。相撲で横綱になって、親方になって、若い衆もたくさんいて、それらを全て断ち切って馬場さんのところに入門したわけだから。僕はもう2年ぐらいしか自分の身体はもたないと思っていましたよ。だって、小学校から相撲取っててさ、それでまたプロレスやったら……自分の身体だからわかるわけですよ。

――ということは、結果的にプロレスラーとしてファイトしたのは2年でしたけど、最初からそのつもりだったんですか?

 最初から2〜3年だとは思っていたね。ただ、2年で辞めたのは結果としてそうなっただけで。別に2年契約とかじゃなく、契約は1年ごとでしたから。

――自分でリミットがわかっていたからこそ、あれだけ一生懸命に取り組んだのかもしれませんね。

 入った時、記者会見で「103キロあります」って言ったけど、実際には90キロなかったですからね。相撲時代は127キロありましたから。プロレスでは最終的に122キロまでもっていきましたよ。もう無我夢中で身体を作って、一生懸命にプロレスを学びましたよ。僕は馬場さんにも奥さん(元子夫人)にも凄く感謝してるんです。元世界チャンピオンの一流の人たちをコーチとして付けてくれて。まあ当時は、そういうことも僕は全然わからなかったけどね。お金のことを言うのは失礼かもしれないけど、馬場さんが僕のために使ったお金は莫大だと思いますよ。

――入団発表後、すぐに渡米されましたけど、いきなりアメリカで生活するというのもキツかったんじゃないですか?

 アメリカの生活は馬場さんがみんなやってくれましたよ。最初、ニューオーリンズのスーパードームの試合を観てね。翌日にはミネアポリスで、「スモウ・グランドチャンピオン、ミスター・ワジマ!」ってリングの上で紹介されて。その時に初めてあの兄弟……ファンクスに会ったんです。馬場さんとはいろんな所に行きましたねえ。僕に気を遣ってくれて、日本食のレストランばっかり連れて行ってくれたしね。で、レストランに行くと順番を待つじゃない? 馬場さんに「それもちゃんと覚えなさい」って。席に着いたら着いたで「自分でちゃんとメニューを見て、自分で注文しなさい」って。そういうのは辛かったよ(苦笑)。

――横綱時代は付き人が何でもやってくれますもんね。

 僕の場合には20人くらい付き人がいたからね。やっぱり必死でした、第二の人生を賭けて違う社会に飛び込んでいくっていうのは。それまで学生横綱出身で、プロに入って横綱になって…そのプライドは捨てないけれども、それまでの人生を捨てて、踏み出したわけだから。

※この文章は『Gスピリッツvol.10』(12月17日発売)に掲載されているインタビューの一部を再編集したものです。本誌では輪島大士がアメリカ修行の様子やデビュー当時の心境、引退を決めたキッカケなどを語っています。

プロレス専門誌『Gスピリッツ』vol.10

12月17日発売「Gスピリッツ」 【(C)Gスピリッツ】

12月17日発売 定価1200円(税込) 発行・辰巳出版

【王道特集――第2弾】
漢たちの昭和・全日本

●輪島大士
名横綱、王道プロレスを語る
「プロレスはショーじゃなかったよ。いざ自分がリングに上がってみて、ヒシヒシとそう感じましたね」

●ジャンボ鶴田
長州力&谷津嘉章と徹底比較
鶴田最強説の真実に迫る

●天龍源一郎
馬場&猪木を倒した“第3の男”
「全日本は顔面をいくら蹴っても、試合が終わればご破算だから…。“ありがとう”って思ったよ」

●越中詩郎
サムライ・シローが誕生するまで
「全日本の頃に藤波さんを観て、初めて光が射したんですよ。“生き残るなら、これだ!”って」

●新間寿
“過激な仕掛け人”が明かす私が企てた馬場・全日本潰しの真相

●グレート小鹿
今、明かされる『暗闘』と『闇』
「全日本にとって最大の功労者はサムソン・クツワダなんだよ。でも、汚名を着せられてるだろ?」

●ウルトラセブン
真説――悲劇のスーパーヒーロー
「実はパイオニア戦士は“パンクラススタイル”をやろうとしてたんだよね」

●MEN'Sテイオー
テイオーがマニアックに解析
歴代チャンピオンたちの“巧さ”の秘密

【考察――シュートレスリング】
デーズ&ゴッチが認めた最強レスラー全リスト

ディアブロ・ベラスコとメキシカン・キャッチ

ハム・リーとゴッチの友情

【日系レスラー列伝】
“神風親分”キンジ渋谷
「獄門鬼の師匠が語る“日系レスラー”という生き方」

【好評連載】
●アリーバMEXCO
聖者伝説の光と影〜エル・サントからミスティコまで〜

●世界ふしぎ再発見
謎の格闘技『バリツーズ』を捜し求めて
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