レアル・マドリー、クラシコでの敗戦の要因と今後

小澤一郎

ポジションバランスの改善とバルサシフト

低迷するチームの再建を託されたレアル・マドリーのファンデ・ラモス監督 【Getty Images】

 次に戦術面だが、レアル・マドリーはラモス監督就任により改善されたチームとしてのポジションバランスがある。シュスター監督時代には中盤が変則的な並びで、普段は右サイドバックのセルヒオ・ラモスが不満を漏らしていたように、中盤右サイドに人を置かないシステムが採用されてきた。シュスター監督の頭には、前線や中盤の選手の動きとポジションを自由化することで、パス回しに必要な流動性を生み出す狙いがあったのかもしれない。しかし、守備面ではこの右サイドのスペースが弱点となっていた。
 結果的に自らポジションバランスを崩していたとも言え、今季は守備から調子を崩していた。ラモス監督はこのシステムのメリットよりもデメリットを認識していたようで、就任翌日のゼニト戦に引き続き、バルセロナ戦でも中盤右サイドに選手を置くオーソドックスな4−4−2を採用した。中盤右サイドの先発はスナイデルが務め、彼が負傷交代した36分以降は代わって出場したパランカが入ったが、中盤の4選手は守備時にディフェンスライン同様のブロックを作り、バルセロナの中盤にスペースと時間的余裕を与えなかった。

 細かいバルセロナシフトも選手の配置からうかがえた。セルヒオ・ラモスの左サイドバック起用以外にも、メッシの中へ切れ込むドリブルとシャビの上がりを考え、守備力のあるガゴを左寄りのボランチに置いた。本来グティとガゴのダブルボランチであれば、それぞれの利き足(ガゴが右利きで、グティは左利き)を考えて、ガゴを右、グティを左に置くのが普通だが、攻撃力があるバルセロナの右サイドを警戒して逆足の配置にしてきた。
 ガゴは、メッシとシャビの対応をほぼパーフェクトに遂行。メッシにボールが入った際には、セルヒオ・ラモスが縦方向の突破スペースを消し、中へのドリブルを誘い込んだ上で素早くガゴがサポートに入り、数的優位な状況を作って何度もボールを奪った。
 シャビの飛び出しにも強い警戒を払い、自らのゾーンに入ってきた時には近い距離感でマーク。それによって、インターセプトを警戒するバルセロナの選手がシャビへのパスを回避するようになり、前後半を通してシャビの存在が消えていた。「シャビの調子が悪かった」と評価する人間もいるだろうが、実際には「ガゴがよく抑えていた」という評価が妥当だろう。

 また、メツェルダーに対してはエトーへの徹底マークを指示。後半、エトーがメッシとポジションチェンジをした際、エトーとともにメツェルダーが左サイドに流れ、セルヒオ・ラモスとポジションチェンジした場面があったことからもその徹底ぶりは分かる。この試合、メツェルダーのボール奪取数は3と少なかったが(同じセンターバックのカンナバーロは9)、裏を返せばメツェルダーのマンマークでエトーにボールが入らなかったということだ。
 エトーはコンスタントな動きでボールを引き出す努力を怠らないFWだが、この日のメツェルダーはそうした激しい動きにもきっちり対応し、1、2メートルの距離感を失わなかった。最後はエトーに得点を許してしまったが、きっかけはCKからのこぼれ球であり、メツェルダーのマークミスではない。

突きつけられた現実と巻き返しへのきかっけ

 守備的なゲームプランをかなり高いレベルで遂行し、バルセロナを試合終了間際まで追い詰めたレアル・マドリーだが、0−2で敗れた現実はしっかり受け止めるべきだろう。バルセロナとの勝ち点差が12に広がり、“リーガ3連覇”が遠のいてしまった。数字上のダメージはもちろん、なりふり構わない中小クラブが展開するような守備的カウンターサッカーを展開しての敗戦は、地力の差を浮き彫りにすると同時に、“マドリディスモ”(レアル・マドリー主義)にダメージを与えるものだった。主力の相次ぐ欠場、監督交代を差し引いても、グアルディオラ監督が言う通り「レアル・マドリーはチャンピオンチーム」だったはず。

 今回のクラシコで監督、選手は持つ力をそれなりに出した。この現実を招いた責任の矛先は、カルデロン会長とミヤトビッチSD(スポーツ・ディレクター)のフロントに向く。クリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)獲得にこだわる補強プランで、実際にはロビーニョに逃げられ戦力ダウンを招いた今夏や、カンテラ(下部組織)軽視の風潮などから分かるように、過去2シーズンのリーガ優勝で隠れていたフロントの計画性の欠如が浮き彫りになった。
 この状況下で監督交代をしておきながら、選手には今季限りの契約条件(タイトルを取れば自動延長)を提示するあたりもそうした一貫性の欠如を露呈している。この冬にラモス監督の好む選手を獲得しながら、夏にはアーセン・ベンゲル監督(アーセナル)の招聘(しょうへい)を試み、異なる監督の異なるプランの下でチームを作るようであれば、遅かれ早かれ今季のような問題が再発するのは間違いない。

 大方の予想通りクラシコに敗れたとはいえ、ラモス監督は早速ポジションバランスの修正、戦術面で可能な対策、カンテラ起用など前監督時代にはなかった具体的行動と好フィーリングを披露した。このクラシコまでがチームの下降線の底で、年明け以降に浮上してくるのでは、と期待が持てる。しかし、クラシコでの敗戦が巻き返しのきかっけとなるかどうかは、今後フロントがどこまでラモス監督に信頼を置き、落ち着いて働ける環境を与えることができるかどうかに懸かっている。

<了>

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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